『食べさせてあげようか?』
目の前に並ぶ甘い誘惑。
堂島さんに誘われて来た世界スイーツ博覧会は、本当に美味しそうなものばかりが集められていて。
好きなだけ選んでいいよ、なんて言われるままに選んだケーキはトレーの上に三つも載っている。対して、向かいの席に座る堂島さんのトレーには一つだけ。
「うっ……、やっぱり最初から取り過ぎちゃったかな?」
「気にしなくていいよ。お嬢さんが甘いものに目がない事は承知の上だし、何より誘った甲斐があるよ。それに少しずつ味見をさせてもらうつもりだから、お嬢さんが選んだだけ私も楽しめるからね」
「もう、上手い事言うんだから……」
言いながら、私はいただきますと手を合わせてケーキを口に運んだ。
「ん~っ! すっごく美味しい!! 甘すぎなくて何個でも食べられちゃいそう。ねぇ、堂島さんも食べてみて」
「そうだね、じゃあ一口頂こうかな」
差し出したお皿を受け取ってケーキを食べた堂島さんは、うんうんと頷いて美味しいと賛同してくれる。
「本当に食べやすい味をしているね。他のケーキも……、うん、美味しいね」
「でしょ? じゃあ、今度は堂島さんのケーキを食べさせてね」
言いながら堂島さんのお皿にフォークを伸ばしたら、ふいっと遠ざけられてしまった。
どうしたんだろうと思いながら見上げると、にっこりと笑った堂島さんが一口分のケーキをフォークに載せて私の前に差し出す。
「ど、堂島さん……?」
「はい、どうぞ」
「……これって、まさか」
俗に言う『あ~んして?』ってヤツ……そう思い当たって堂島さんを見ると、にこにことした微笑みが返ってくる。
「あの、堂島さん……」
「『食べさせて』あげるよ、お嬢さん。さぁ、遠慮せずに」
「………………」
満面の笑みを浮かべる堂島さん。目の前に差し出されたケーキ。
たっぷり数秒間考えて、私は「いじわる」とつぶやいた。
私よりずっと大人で頼りになる人だけど。でも時々、こんな風に子供みたいな事をしてみたりする。
清四郎さんとこういう所は似ているかもしれない――なんて思いながら、観念してケーキを口にする。
「…………美味しい?」
微笑んだ堂島さんに感想を聞かれるけれど、恥ずかしくて味わうどころじゃない。頬が熱くて、赤くなっていくのが分かる。
「美味しい、けど。……ちょ、ちょっと私、他のケーキを取ってくるからっ」
とにかく気持ちを落ち着けたくて、勢いよく席を立つ。
(もうっ、堂島さんってば。あんな事をされたら味なんかよく判らないわよ……)
くすぐったいようでどこか悔しいような。そんな複雑な気持ちになりながら、私はケーキを取りに歩き出した。
お題『食べさせてあげようか?』 (Completion→2008.02.26)
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