『冬の日に ~君の側で~』
冬の寒空の下、買い物袋を持ちながらお嬢さんの隣を歩く。
男の手でも重いと感じる量の荷物を一人必死に持ち運んでいた彼女は、それまでとは一転して笑顔を浮かべていて。
声を掛ける前は雲っていた表情が明るさを取り戻している。
いつか彼女の事を向日葵のようだと例えた事があったけれど、こんな私でも彼女の太陽になれるのなら――そう考え、否定する。
例えるなら、私は月だ。静かに彼女を見守り、暗闇の中でも歩いていけるように光を届ける月。
清四郎のような眩しい太陽には決してなれない。
(それでも……)
年月を重ねていく程に彼女を支え続けたいという気持ちは強くなっていく。
すぐ側で、こうして何気ない日常の中で君を支えていきたいのだと――。
「……っ」
ふと会話が途切れ、お嬢さんが小さく身震いをする。先ほどまで無理をした為に掻いていた汗が冷えたのだろう。
私は立ち止まり、荷物を置いて振り返った彼女を手招きした。
首を傾げながら前に立ったお嬢さんに、自分が巻いていたマフラーを外してそっとかける。
「こ、これ……」
「頑張ってた時に体が熱かった分、そろそろ寒くなるだろうと思ってね」
「でも、堂島さんが……」
断ろうとする彼女を制して、しっかりと巻き付ける。
ずいぶんと華奢な体に思わず抱き締めてしまいたくなるが、そんな気持ちを制して体を離す。
「ほら、行こう」
「……うん」
再び歩き出すと、いつの間にか会話は途切れていてただお互いに白い息だけを繰り返す。
訪れる沈黙。それでも彼女との間に流れる空気は穏やかで。
そのまましばらく歩き続けていると、ふいに名前を呼ばれた。
「……堂島さん」
「ん?」
「あのね、いつもありがとう」
「……どういたしまして」
いつもありがとう――そう突然の感謝の言葉を伝える彼女の声は常より深いもので。
(すぐ側で、こうして何気ない日常の中で君を支えていきたい)
自惚れかもしれないが、そんな私の気持ちを肯定してくれたような気がして私は微笑んだ。
心の中で願う。
これまでの時間、今の時間、そしてこれからの時間も。
君を支え、見守らせて欲しい。
静かな光に君が微笑んでくれる、それだけで。
太陽にはなれなくとも側にいられるだけで構わない。
だからどうか、こうしてすぐ側に立つ事を許して欲しい。
今も昔も遠い未来も、すぐ側に――。