『僕を待つ灯火』
冬の冷たい風に思わず身が震える。
往診からの帰り道を辿り、早足で自宅へと辿り着いた私は玄関のドアを開けて微笑んだ。
明るく、暖かな家の中。
家の中に漂う夕食の匂いに急に空腹を感じ、リビングに入り「ただいま」と声を掛ける。
「あ、おかえりなさい!」
キッチンに立つ彼女は私に気付き、火を弱めてコンロから離れると私の前に立った。
「外、寒かったでしょ? わ……、手がこんなに冷たい。夕ご飯もうすぐ出来るけど、先にお風呂に入る?」
私の手を取って眉をしかめると、やっぱりお風呂を用意しようかとつぶやきながら離れようとする。そんな彼女の手を握り返し、私はその体を抱き寄せた。
「な、何……? 急にどうしたの?」
戸惑いながらも背中に手を回して応える彼女を深く抱き締める。
(あたたかい……)
私の帰りを待つ彼女の存在が。何より、彼女自身が。
長年知る事のなかった温もりを私に与えてくれている。
「……堂島さん?」
困ったように見上げる彼女に、私は告げる。
「もう少しだけこのままでいさせて欲しい」
「…………うん」
頬を染め、顔を埋める姿に愛おしさを感じて微笑んだ。
私を待つあたたかな場所。
彼女が与えてくれる優しい日常は、この心に温もりを灯し続ける――。
お題『僕を待つ灯火』