『秋空の下で』


 休日に紅葉を見に行こうと足を運んだ公園で、夏見さんが屋台に足を向け、紙袋を携え戻ってくる。
「はい、堂島さん。お芋食べるでしょ?」
 胸に抱えた紙袋から出したのは、焼き芋で。礼を伝えながら受け取り、半分に折って彼女に渡すと柔らかな笑みが返ってきた。
「はんぶんこ?」
「そう、はんぶんこ。残りは後でゆっくり食べようか。他にも屋台が出ているから、いろいろ食べ歩くのもいいだろうしね」
「それもそうね。じゃあ、あそこのベンチに座って食べましょうか」
「ああ、そうだね」
 連れ立って歩き、ベンチに腰を下ろして焼き芋を頬張る。口の中に広がる甘味を感じながら食べていると、ふと清四郎と夏見さんと、三人で焼き芋を歩き食べした事を思い出した。
「そういえば昔、大学の帰り道に君が焼き芋を買って、清四郎と三人で食べたよね」
「あ、確かにそんなこともあったわね。清四郎さんが自分の芋があるのにわざわざ私の芋をかじってたの思い出したわ……!」
「ちょっと顔が本気で怒ってるんだけど……。食べ物の恨みは怖いってヤツかな」
「もー、ほんとにね。あの時は惚れた弱みで『しょうがないなぁ』って思ってたけど、今同じ事されたら間違いなく殴ってるわ」
「そ、それは……。この場に清四郎がいないのが幸いとでも言うか」
 素振りをする夏見さんに苦笑しながら、あの時、何だかんだで仲睦まじい二人を見ながら隣で焼き芋を食べていた自分に、彼女と二人で寄り添いながら歩く日がくるなど欠片も考えていなかった事を思い重ねる。
「でも、なんだかんだで三人で焼き芋を買って食べ歩いたことが思い出話になったように、今日の事もおじいちゃんおばあちゃんになった頃に、『あの時は紅葉狩りに行った公園で、二人で焼き芋を食べたよね』なんて思い出すんだろうなぁ」
 微笑む夏見さんに、当たり前のようにこの先の日々もずっと一緒に、年老いるまで共にいるのだと言われて心から嬉しく思う。
 そして。
「その時は、いい加減に帰ってきてるはずの清四郎さんに自慢するんだから。堂島さんと美味しい焼き芋食べて、綺麗な紅葉を見てデートしたんだからって。きっと『いいなぁ〜うらやましいッ‼︎』なんて悔しがるんじゃないかしら」
 ニシシと笑う夏見さんが、また清四郎のことを含めて話をしてくれることが嬉しく。笑いながらそんな未来を思い浮かべる。
 いつかの未来に、三人で賑やかに過ごす時間があることを。
 晴れ渡った秋空の下、綺麗な木々の紅葉を見ながら美味しい焼き芋を食べ、君と過ごす時間。
 いつの日か容易に記憶を手繰り寄せられるように、私はこの光景を胸に刻み込んだ。












 (2024.01.06)