『ポッキーゲーム』(堂島ED後、半年強経過。風斗は紫藤家にいる設定)
「お母さん、お待たせ。そういえば今日って11月11日だよね。……お母さん、ポッキーゲームって知ってる?」
一週間ぶりの息子との時間。
すっかり行きつけになっているマ・シェリで、向かいの席に座るなりそう話を振ってきた風斗に私は首を傾げた。
ポッキーゲーム。確か、職場の若い子がもうすぐポッキーの日だからとそんなような話をしていたような…。うろ覚えの記憶を辿っていると、風斗は口の端を上げて意味深な笑顔を浮かべた。
「ポッキーゲームって、二人でポッキーの両方の端っこをくわえて食べ進めるゲームなんだけど、先に唇を離した方が負けになるんだよね。あと、先に折った場合も。
で、恋人同士だったり両想いだったりすると、そのままキスしちゃったりするゲームなんだよね」
「へぇ……。今はそんなのが流行ってるのねー」
なんで急にそんな話をし始めたのか意図がわからないまま相槌を打つと、風斗の笑みが深くなる。
「まぁ、流行ってるっていうより定番ネタだけど。……で、ちょっと想像してみたんだ。お母さんと堂島さんがポッキーゲームをしたら、どんな感じになるのかなって」
「はぁぁ? 何考えてんのよ。堂島さんがそんなこと事する訳ないじゃない…というか、なんで私と堂島さんで想像するのよ。もっとこう、雷斗と李ちゃんとか、若い子で考えた方が楽しいでしょうに」
「お母さんたちだからこそ、どうなるかなって考えるのが楽しいんだよ。だって二人とも、典型的なパターンじゃないと思うから」
「なによそれ……。じゃあ聞くけど、典型的じゃないって言うのなら風斗の予想はどうだっていうの?」
完全に話に乗せられてるけど、堂島さんがポッキーゲームをする姿が想像できなくて興味本位でつい聞いてしまう。
このタイミングで注文を取りに来た店員さんにコーヒーと紅茶、それから今日のおすすめケーキをお願いして話に戻ると、風斗はテーブルサイドに置かれているスティックシュガーを一本取り出して両手で端を持った。
「まず堂島さんはね、案外こういう事に乗り気だったりすると思うんだ。正確には、お母さんが絡む勝負事には……っていうのがポイントだけど。で、お母さんも負けず嫌いでしょ? それに加えて両想いなんだから、ポッキーゲームをやるっていう土俵に乗っちゃえば、こう……」
風斗は指先を動かして、スティックシュガーの中ほどまで指を進めて両手の指先を触れ合わせる。小首を傾げて「……ね?」と同意を求める笑顔があざと可愛いけれど、私は思い切り頭を横に振った。
「土俵に乗るも何も、やらないわよ? 私も堂島さんも良い大人なんだし……。それよりも両想いって、恋人って訳じゃないし、言い方がね……」
ニヨニヨと笑う風斗の前で言い淀んでしまう。清四郎さんと離婚して、私をずっと支えてくれていた堂島さんと寄り添って生きていくってお互いに決めているけれど、恋人とかそういう括りかと言われたらそういうのじゃなくて、もっと別の関係というか……。
そんな風にグルグルと考えていると、「でもしてるんだよね、キスとかそういうこと」と風斗の囁くような声が降ってきて、「し、してな……くはないけど!」とムキになって思わず返してしまう。
あーもう、もう一人のムスコは絶対にこういう話の持っていき方はしないのに……と雷斗の顔を思い浮かべながら茹った顔を手で仰いでいると、ケーキと飲み物が届いて意識がそちらに向く。
全くなんでこんな話になったのか。発端の風斗を睨むと完全にスルーされて、私は頬を膨らませながらケーキにフォークを刺した。
(2024.11.12)