『コンプレックス』 (特命戦隊ゴーバスターズ/リュウジ×ヨーコ)
「リュウさん、もう一回!」
組み手の訓練はもう一時間を越えているというのに、ヨーコちゃんは生き生きとした目をして俺を見ている。
底なしの元気さだな……と呆れ半分、羨ましさ半分な気持ちで彼女を見返して、俺は首を振った。
「ごめん、ちょっと休憩挟ませて」
「うーん、しょうがないなぁ」
唇を尖らせながらも了承してくれたヨーコちゃんがタオルとミネラルウォーターを取ってきてくれて、それをありがたく受け取る。
キャップを外して冷たい水を喉に流し込んでいると、チョコレートバーをかじっていたヨーコちゃんが俺のシャツをそっと引っ張った。
「リュウさん、汗すごい」
「……だよね。着替えあるから替えるよ」
「別に私は気にしないけど」
「俺が気になるの。それに汗が床に落ちてそれで滑ったりしたら、お互い怪我をしかねないし」
最もらしい理由を告げればヨーコちゃんは素直に頷く。
スポーツバッグから予備のシャツを取り出して着替えていると、じっと見つめる彼女の視線に気付く。
彼女の目の前で着替えた俺が悪かったけど、そんなに見ないで欲しい。
居心地の悪さを感じて急いで着替えを終えると、ヨーコちゃんが俺ににじり寄っていきなりシャツを捲り上げた。
「……ヨーコちゃん?」
何がどうしたんだろう。
固まっていると、女の子らしい柔らかな手のひらがひたひたと身体に押し当てられる。
「――リュウさん、服脱ぐと筋肉すごいよね」
「え……?」
「こんなに細いのにずるい……。スタイル良すぎ」
「あの、ヨーコちゃん?」
「あんなに力あるのに、腕だって細くて。神様って不公平だよね」
「……あー、えーっと」
ふいに前にヨーコちゃんが零していたコンプレックスを思い出す。
リュウさんみたいにいい感じの筋肉がつかない、脂肪が憎い……なんて言ってたけれど、ぜんぜん気にする事ないのに。それに男と女なんだから、筋肉の付き方は違う――なんて、彼女にそれを説いてもきっと納得はしないだろう。
かけるべき言葉を探しているとヨーコちゃんが飛びついてきて、その勢いを受け止めきれずに床に倒れ込む。
「ヨーコちゃん?」
「…………リュウさん、ずるいっ‼」
「ちょ、痛い! 痛いって――⁉」
どこで何のスイッチが入ったのか、ヨーコちゃんが素早く関節技を決めてくる。
年頃の女の子になった彼女の心境がさっぱりわからない。
とにかく今は――。
「いててて、ちょっと、ほんとにやめて! ギブギブ……っ‼」
悲鳴を上げながら必死に床を叩き、一秒でも早く解放されることを願うしかなかった。