『穏やかな夜』  (特命戦隊ゴーバスターズ/リュウジ×ヨーコ)



「あっつ……」
 額に噴き出た汗を拭い、リュウジは腹の上で寝ているヨーコをそっとベッドの上に降ろした。
 多少身動ぎしたものの、深い眠りについているようで起きる気配はない。ホッとして静かにベッドを抜け出すと、自室に備え付けられている小型の冷蔵庫からミネラルウォーターを出して喉を潤し、そしてアイスパックを額に押し当てた。
 エアコンが効いてはいるが、幼いヨーコの体温は高く、接触していると身体が熱くなる。
 熱暴走するまでの熱さではないが、それでも万一を考えてヨーコが寝付いた頃を見計らって抜け出し、体を冷やすのが習慣になっていた。
 実家で生活していた時は当たり前のようにベッドを一人で使い、寝るのも起きるのも自分のタイミングだった。
 けれど今は毎晩ヨーコの添い寝役だ。二十時にはベッドに入り、いくつか絵本を読み聞かせて時には子守唄を歌う。まさか自分がヨーコの世話をする事になるとは思わなかったが、ヨーコ自身が望んで離れないのだから仕方がない。
 母親との突然の別れからしばらく、夜の闇が訪れる度にひどく泣いていたヨーコは、リュウジの寝かし付けで眠るようになっていき、今は夜泣きもほとんどしなくなった。
(ほんと、落ち着いてきたよな……)
 時々、母親を思い出し泣くときもあるが、笑顔でいる時が多くなった。
 喜怒哀楽が大きい四歳の少女は、エネルギー管理局という大きな家族の中で真っ直ぐに育っている。
(もし俺がヨーコちゃんの歳に親を失っていたらどうなっていたんだろう……)
 不意にそんな事を考えようとすると、「リュウにいちゃん」と寝惚けた声で呼ばれ、リュウジはベッドに戻った。
 寝苦しそうに寝返りを打つヨーコの隣に体を滑り込ませ、ポンポンと背中を軽く叩きながら言葉をかける。
「大丈夫、俺はここにいるよ」
 その一言が届いたのか、ヨーコの寝顔はスッと柔らかくなる。
 あどけない彼女の寝顔を見ていると眠気を感じ、リュウジはあくびをした。
 穏やかに流れる時間。
 小さな少女の寝息に耳を傾けながら、リュウジは意識を手放した。