『優しい夜』  (特命戦隊ゴーバスターズ/リュウジ×ヨーコ)



 夜、そろそろ寝ようかという時間に鳴り響いたブレスのコール音。応答するとヨーコちゃんの弱々しい声が聞こえてきた。
『ごめん、リュウさん。お昼のアレ、思い出しちゃって……。リュウさんの部屋に行ってもいい?』
 ロウソクロイドの精神攻撃で見せられた幽霊を思い出したのだろう。
 いいよと返事を返せば「すぐに行くね」と通信を切り、間もなくヨーコちゃんは枕を持って俺の部屋を訪れた。
「リュウさん、ありがと。気にしないようにって思ってたんだけど、やっぱ無理で……」
「確かに簡単には忘れられないよね。夢で見たって感じじゃなくて身をもって体験させられた感じでリアルだったし」
 俺の場合はヨーコちゃんと違ってゾンビに襲われたけど、噛まれた腕に歯型は残っているし、あちこち掴まれた跡が痣になっている。そんな腕の傷にヨーコちゃんが気付き、眉根を寄せた。
「これ、痛そう……」
「まぁね。でも冷やしたし、もう大丈夫だよ。それよりヨーコちゃんはベッドを使って。俺は床で寝るから」
「やだ。一緒に寝るの」
「え? 一緒に?」
「うん。ダメ……かな」
 不安そうに瞳を揺らしながら俺を見上げるヨーコちゃんにノーと言える訳がない。
 それでヨーコちゃんが安心出来るなら……と受け入れると、彼女はベッドの奥に体を横たえた。
「リュウさんと寝るの久しぶり、だよね」
 嬉しそうに微笑むヨーコちゃんの隣に体を滑り込ませ、そうだねと相槌を打つ。
 ヨーコちゃんとこうして一緒に寝るのは久しぶりで。まさかこんなに成長した彼女に添い寝を求められるとは思っていなかったけれど。
 ほんの少しの気まずさを感じたけれど、伝わる温もりに昔を思い出してあたたかな気持ちになる。
 自分以外の温もりが心地良くて、それが彼女だからこそ感じるもの。
「なんだか懐かしいな。ヨーコちゃんが小さい頃はこうして一緒に寝てたから」
「うん。リュウさんあったかくて安心する……」
 そう言って俺の腕に触れたヨーコちゃんは、ふと噛み跡に指を沿わせて頰を膨らませた。
「これ、消えるのにどれくらい掛かるのかな……」
「どうだろう。さすがに数日じゃ消えないと思うけど」
「なんかムカつく。メタロイドはシャットダウンしたのに、この傷見る度に嫌でもゾンビのこと思い出すでしょ? リュウさんは大人だけど、怖いものは怖いよね……。早く治ればいいのに」
 そっと触れる指先とヨーコちゃんの言葉と。
 ゾンビは現実には存在しないものだと理解していて特に怖さは感じていないけれど、心が温かくなる。
「そうだね。ありがと、ヨーコちゃん」
 優しい気持ちに小さな嘘をついて髪を撫でると、ヨーコちゃんはくすぐったそうに笑った。
「もう。子ども扱いはやめてってば」
「子ども扱いしてるつもりはないよ。けど、大事にしたいし守りたいって気持ちは変わらないから、つい……ね」
 俺を頼ってくれる君が。
 俺に優しさをくれる君がどうしようもなく可愛くて。
 もう一度とひと撫でして手を離すと、ヨーコちゃんが俺の肩に顔を埋めた。
「私も、守りたいよ。リュウさんのこと。守ってもらってばかりじゃイヤだから」
「……うん。頼らせてもらうよ。――頼りにしてる」
 心からの気持ちを伝えれば、満足そうに微笑んで。
「おやすみなさい、リュウさん。いい夢を見てね」
「ヨーコちゃんも。楽しい夢を。おやすみ」
 二人寄り添って互いの温もりを感じながら眠る。
 悪夢を見た夜に訪れた優しい時間に心満たされながら、俺はゆっくりと目を閉じた。