『手向けの花』 (特命戦隊ゴーバスターズ/リュウジ×ヨーコ)
それはほんの気まぐれだった。
花屋でマーガレットの花を見かけてエスケイプを思い出し。小さなブーケを作ってもらい、彼女が最期を迎えた場所に手向けに行った私は思いがけない光景に息を呑んだ。
そこにあったのは一輪のマーガレット。
すっかり萎れてしまっている花に、何日か前に置かれたものだと察すると同時に誰が置いていったのかを知る。
「……エスケイプ」
先に置かれた花の隣にブーケを置き、マーガレットの白い花を見ながら私は膝を折った。
「いいモノと戦いたいけど、同じくらいパパも大事、だったっけ。あの言葉に、私は愛がどういうものなのか気付かされた。だからこそ、今日初めて……少しだけあなたが羨ましいと思ったよ。リュウさんとエスケイプだけで通じ合っていたことがある。この花も、きっとあなたが消えた日に毎年供えられていたんだよね。それはリュウさんが私に向けてくれている感情とは違うと思うけど、リュウさんの心があなたにも向けられているのが、なんだか悔しいよ」
エスケイプの最期を見届けたのもリュウさんで、その姿を少し離れた所から私は見ていた。あの時リュウさんが何かをエスケイプに伝えて、彼女が満たされたように微笑んだのを憶えている。
私の知らないリュウさんとエスケイプの関係。
手向けられたマーガレットの花に、彼の心にエスケイプの存在が今も刻まれているのだと知って。
「……これってヤキモチ、だよね。愛を知らないままだったら気付かなかった」
手を伸ばし、ブーケを持って立ち上がる。
エスケイプの姿を思い描き、私は一人呟いた。
「この花、やっぱりあなたにはあげない。リュウさんにもらったので十分でしょ。その代わり、私も憶えていてあげる。エスケイプが確かにいたってこと。あなたの言葉がなかったら、私はリュウさんへの気持ちに気付かなかったかもしれないから」
悔しいけど、本当は少し感謝している。でもそれは言葉にはしない。
「じゃあね」
眩しいくらいに晴れ渡った青空を見上げ、私は歩き出した。