『優しさの向こう側に』   (特命戦隊ゴーバスターズ/リュウジ×ヨーコ)



「リュウさんって、優しすぎるよね」
「……ヨーコちゃん?」
 休日の昼、二人で出掛けた先の喫茶店。
 クリームソーダのアイスを突きながらポツリと呟いたヨーコに、仲村は首を傾げた。
 優しすぎるとはどういう意味なのだろうか。基本的な性格を指しているならば、確かに岩崎リュウジという人間は気さくで人に気配りができ、優しいと言える。それに加え、とりわけ身内のいないヨーコの兄代わりということもあり、特別に甘く接しているのは確かで。
 ヨーコちゃんに対して優しすぎるのは今更じゃないですか――と思わず本心を告げたくなるのを思い止まり、待つ事で続きを促す。ヨーコの目をそっと見やると、いつも真っ直ぐで凛とした瞳が不安げに揺れていて、仲村は探るようにヨーコを見る。その視線を意識することなく、ヨーコはアイスを突く手を止め、ポツリと呟くように思いを言葉に乗せた。
「……リュウさんが優しいのは昔からだけど、最近気付いたの。私だけじゃなくて誰にでも優しすぎるんじゃないかって」
「それって……」
 ヨーコが言いたかったこと。リュウジが優しすぎるという言葉の裏に彼女の気持ちが垣間見え、ああ、そういうことなのねと納得した仲村は口元に笑みを浮かべた。
「ヨーコちゃんは、リュウジさんの優しさを独り占めしたくなったんですね」
「独り占め……。う、なんかそう言われると私の心が狭いみたい」
「狭くなってもいいんです。その気持ち、やきもちだと思いますよ」
「ヤキモチ、かぁ。……でもそれって、どういう時に感じるもの?」
「どういう時って……」
 真顔で仲村の答えを待つヨーコは、未だ特別な誰かに恋心を抱いたことがないらしい。あまりにも純粋で真っ白なヨーコに情報を与えるのは簡単だが、他者が導きながら答えに辿り着かせてはならないと思い、アイスティーを口にしてその場の空気を落ち着かせた。
 ソワソワと仲村の様子を見るヨーコに「それは教えられません」とにこやかに返せば、ヨーコは一気にガクリと肩を落とす。
「ええっ、なんでっ⁉」
「言うのは簡単ですけど、それじゃ意味がないと思うんです。どうしてリュウジさんに対してやきもちを妬いちゃうのか。ヨーコちゃんが自分の気持ちに向き合って、答えを見つけることが大事だから」
「ううっ……」
「すみません、ヨーコちゃんの望んだ答えじゃなくて」
「……ううん、大丈夫。モヤモヤした気持ちの原因がヤキモチってわかっただけでも一歩前進したから。ありがとう、仲村さん。ちょっと自分で考えてみる」
「はい」
「あっ、アイスが溶けちゃってる……! 早く食べないとっ」
 慌てて柔らかくなったアイスをスプーンですくい、口に運ぶヨーコを見て仲村は微笑む。
 ヨーコの抱いた嫉妬心の根底に彼女が気付いた時に、どんな風に色付くのだろうか。恋心を抱いた女の子は一気に大人への階段を駆け上がる。
 美しく花咲くヨーコを見て、リュウジがどんな反応を見せるのか。できれば彼女を一番近くで護ってきた他の誰でもない彼に愛しんで欲しいと仲村は願い、思いを馳せた。