『雪が解けるまで』 ※R-15   (特命戦隊ゴーバスターズ/リュウジ×ヨーコ)



「はい、リュウさん。これおみやげ」
 そう言って差し出された手袋をはめた手の上には、小さな雪だるまがひとつ。
 指先でそっと触れて「冷たい」と零せば、ヨーコちゃんはクスクスと笑った。
「リュウさん、ここ数日ずっとカンヅメで雪が積もってることすら知らないんじゃないかと思って。だから季節のお届け物」
「ははっ、ありがとう。でもすぐに溶けちゃうな……。この部屋は冷凍庫がないし――」
「別に溶けてもいいよ。もう目的は果たしたし」
「んー、じゃあせめてマグカップの中に入れておこうか」
「了解。リュウさんのカップ借りるね」
 職員の休憩スペースに置いてある俺のカップを持ち出し、ヨーコちゃんが雪だるまをそっと入れる。そしてデスクにカップを置き、手袋を外すと手近な椅子を引き寄せて座った。
「他の人は?」
「もう上がったよ。残ってるのは俺だけ」
「いつも思うけど、リュウさんだけ残業しすぎじゃない?」
「まぁ、これは仕事じゃなくて自主勉強というか。ほら、歳の割には駆け出しじゃない? だから現場で早くいろんなことを吸収したくてさ」
「リュウさんの真面目なとこ、好きだし尊敬するけど……。ちょっと恋人のことほったらかしじゃない?」
 ぷく、と頬を膨らませるヨーコちゃんがどうしようもなく可愛くて、そして素直にごめんと謝る。
「……確かにそうだよね。最近、帰るのも遅いし、いつもここまで来てもらっちゃってるし」
 パソコンをスリープモードにしてヨーコちゃんの方に体を向け、視線を落とすと少し赤くなった指先に気付く。触れると冷たさが伝わってきて、指の腹でそっと擦るとヨーコちゃんは俺を見上げた。
「手袋をしていてもこんなに冷たくなるくらい寒かったのに、わざわざ雪だるまを作って届けてくれたんだよね」
「……子どもみたいだった?」
「違うよ。嬉しかったし、こういうこと考えてくれる女の子が恋人で本当に幸せだなって思うよ」
「ほんとに?」
「本当だよ。……ヨーコちゃん、こっち来て」
「……うん」
 俺の意図を汲み取って、ヨーコちゃんが俺の膝に座る。服の表面や触れる肌に外の冷たさの名残が残っていて、それを温めるように抱き締めると頬を擦り合わせてきた。
「リュウさん、あのね……」
「ん?」
「キス……したい」
「俺もだよ」
 耳元で囁かれたお願いを断るわけなんかなく。
 唇を重ね合わせて、吐息を混じり合わせるように少しずつ深くキスをするとヨーコちゃんの手が背中に回る。
 誰もいない部屋で二人きり。
 俺が本当に真面目ならこんな場所でこんなことしないよ、と内心で囁きながら、腕の中の恋人がキスの合間に漏らす息と甘やかな声にじわりと身体の奥に熱が点る。
 それはヨーコちゃんも同じようで、もどかしそうに身動ぎをしている。
 このまま本能に任せて互いを求められたらいいのに――。
 そんなことを考えながら太腿に手を伸ばし、指先に触れた制服のスカートに我に返って理性を手繰り寄せる。
「……リュウさん、あっつい。脱いでもいい?」
「ダメ。まだ体が冷えてるでしょ。もう少しこのままでいて」
 ジャケットを脱ごうとするヨーコちゃんを止めてキスの続きをすると、全部を委ねるように体を預けてくる。
(ああもう、本当に可愛いな……)
 今はまだキスしか出来ないけれど、せめて愛しいと思うこの気持ちが伝わるように。
 マグカップの中の雪だるまが溶けるのを横目に見ながら、俺は自分の中にある熱を移すように口付けを深くした。