『痛みと少年の決意』 (特命戦隊ゴーバスターズ/リュウジ)
「……どうして? こんなことなら研究所に行かせるんじゃなかった。陣という人にリュウジを託さなければ良かった!」
「――っ、先輩は何も悪くない‼」
突然、日常を壊されたあの日から数日。
ヴァグラスに対抗すべく立ち上げが決まったエネルギー局の特命部に所属するため、実家を出ることを伝えると先輩の事を否定され、頭に血が上った。
嘆く母の言葉に反射的に叫び、テーブルを叩くと天板が割れて母の顔から血の気が引く。
感情的になると力のコントロールが上手くいかなくなるんだな――やけに冷静に考えながら手のひらとその向こうに見える壊れたテーブルを見つめていると、母から向けられる視線に気付く。何も言えずにいる母に向き合い、僕は笑顔を浮かべた。
「先輩は悪くないよ。それに桜田センター長や研究所の職員の人たちも。僕は自分の意思でクリスマスの日に研究所に行って、そして助けられたんだ。今度はこの力で僕がみんなを助ける番だから」
「でも、そんな義務なんてないはずよ。リュウジ、あなたは普通の男の子でまだ子どもなのよ。高校もやめると言ったけれど、本気なの? あれだけ通いたがっていた高校じゃない。エンジニアになるって夢は――」
「母さん、ごめん。もう決めたんだ。僕はエネルギー管理局に行くよ」
「リュウジ!」
「……僕はもう、普通じゃない。見たでしょ、この力を。研究所を襲ったやつらはきっと普通の人間には倒せない。ワクチンプログラムを持った僕たちじゃないと。ヒロムとヨーコちゃんだけに戦わせるわけにはいかないから」
「……っ」
肩を震わせた母の顔がクシャクシャになり、胸が痛む。
ごめん。ごめんなさい。
心の中で何度も謝って。でも僕はヒロムとヨーコちゃんとの約束を胸に前に進むと決めたから。
「大丈夫。僕はもう子どもじゃないから。明日、家を出るよ」
告げた言葉に目が大きく見開かれて、何か言いたげに口が開く。けれどそれを待つことなく、僕は背中を向けて自分の部屋へと足を向けた。
部屋に入り、ドアを閉めてそのまま背を預ける。
(母さんにあんな顔をさせたくなんかなかった。でも――)
何をしなければいけないのか、それが分からないほど子どもではないから。
もう一度、今度は声を出して「ごめんなさい」と一人つぶやき、僕は顔を上げた。