『熱暴走』   (特命戦隊ゴーバスターズ/リュウジ)



 訓練の最中、体温が上昇して熱が行き場を失い、意識が失われて。そして目覚めた時、周囲の誰かが傷付いたり物や建物がひどく壊れている事が何度かあった。
 ヨーコちゃんがエネルギー切れになると動けなくなるように、俺にも生じていた『ウィークポイント』と呼ばれる、人ならざる力を得た代償の副反応――いや、バグと言うべき現象、熱暴走。
 記憶を失っている間、何が起こっていたのか記録映像を見せてもらい、俺は絶句した。
 まるで別人格の自分がそこにいて、人ならざる力を持っている筈の俺以上に強い力で周囲に殺気を向けて暴れている。
 敵意をむき出しにした眼光鋭い顔付きも、荒々しい声音も言葉遣いも、動きの一つ一つでさえも自分とは違う。なのに確かにそれは俺で。
 信じたくない。でも確かにこれは現実で、受け止めなくてはならない自分自身の姿だと内心で葛藤していると、肩に手が置かれた。
「大丈夫か、リュウジ」
 モニターの前で立ち尽くす俺の隣に黒木さんが立つ。その顔を見返して、曖昧に笑った。
「……これはちょっと想定外でした。見境なく……味方すら傷付けてたんですね、俺」
「ああ。だが、お前自身の意図ではない。だから気に病むな――とは言っても無理な話だとは思うが」
「そうですね。……受け入れるには少し時間がかかりそうです」
「すまない」
「黒木さんが謝ることじゃないですよ」
 本当に誰のせいでもなくて、きっと俺たちに希望を託した桜田センター長も予測できなかった事で。
 幸いなことに、熱暴走をする前に体を冷やすという対処法もある。あんな状態にならないように俺が気を付けて、ウィークポイントを発生させないような戦い方を身に着けていけばいい。
 気を取り直して俺は首を振った。
「確かにショックでしたけど、もう誰かを傷付けないように俺が努力すればいいんです。それに……」
 脳裏を過ぎる幼い女の子の笑顔。
 俺を「リュウにいちゃん」と呼び、ようやく笑えるようになってきたヨーコちゃんにあの姿を絶対に見せたくない。
「絶対に自分の状態をコントロールしてみせます。じゃないと自分を許せそうにないんで」
 俺はモニターの中で暴れ続ける自分の姿を目に焼き付け、拳を握り締めながらウィークポイントと向き合うことを決意した。