『幸せと葛藤と』   (特命戦隊ゴーバスターズ/リュウジ×ヨーコ)



「リュウさん、ウサダから伝言。『高校を卒業するまでは清い交際で』だって。ねぇ、清い交際ってどんな意味? そのまま言えば伝わるって言われたんだけど」
 ドライブデートの翌朝、トレーニングルームに顔を出したヨーコちゃんの発言に、俺は口にしていたスポーツ飲料を飲み込むタイミングを間違えて思い切りむせ込んだ。
「大丈夫⁉︎」
「……っ、なんとかね」
 ようやくの思いで呼吸を整えると俺は息を吐いた。
 清い交際。要は一線を越えるな、ということだ。
 俺自身、そこは焦らないようにしようとは思っていたけど、具体的に言われると結構くるというか、年齢差を突きつけられるというか。
 とにかくヨーコちゃんを大事にしたい気持ちはウサダと変わらなくて、彼の言うようにあと半年、彼女が高校を卒業するまでというラインは守りたいと思う。
 問題は純粋すぎるヨーコちゃんで、恋人という関係になった今、高校の友達からその手の話を聞いたら実行しようと言いかねないこと。
 俺は疑問符を浮かべるヨーコちゃんの手を取り、向き合った。
「ヨーコちゃん、清い交際っていうのは早い話、エッチはなしってことだよ」
 誤魔化したところで彼女は遅かれ早かれ他から耳に入れるだろう。それよりはここでハッキリさせておこうと包み隠さず伝えると、たっぷり十秒ほどフリーズし、それから一気に顔を真っ赤に染めて口をハクハクと動かした。
「……そ、っか。恋人だもんね。わたしたち……」
 思い切り動揺しているヨーコちゃんに、ストレートに伝えたのは失敗だったかとも思うが仕方ない。
 でもこればかりは二人で向き合わないといけないことだから。
 そして何より、雰囲気に流されて心の準備が出来ていない彼女に手を出さないよう、自戒の意味もある。
 目を泳がせているヨーコちゃんの頰に触れ、俺は素直な気持ちを言葉にした。
「昨日、キスした時も一度じゃ終わらなかったよね。ヨーコちゃんは俺にとって、もうどうしようもなく大切で、好きで、こうやって触れて確認したくなるんだ。君に触れることが許される存在なんだって。正直に言えば、そういう事もしたいって思う。でもそれはヨーコちゃんにかなりの負担をかけることになるし、体も心も準備が必要だから焦りたくないんだ。だから、少なくとも高校を卒業するくらいまでは準備期間ってことで、ね」
 俺の言葉を受け止めたヨーコちゃんが、コクコクと頷く。そして手を伸ばして俺の顔に触れ、指先で頰をなぞった。
「……わかった。好きな人に触りたい、もっと触れたいって気持ち、私も同じだし。……ねぇ、リュウさん。キスはいいんだよね?」
「うん、いいよ」
「じゃあ……」
 ヨーコちゃんが背伸びをし、俺の唇に自分のそれを押し当てる。
 ややあって体を離したヨーコちゃんは照れくさそうに笑った。
「リュウさん。これからいっぱい、キスしようね。それでいつか、私の初めてをもらってね」
「……っ、了解」
 今すぐにどうかしたくなる本能を抑え込んで了承する。
 こんな可愛い彼女がいて、いつまで理性的でいられるのか。
 胸に飛び込んできたヨーコちゃんを抱きしめ、俺はそっと溜息をついた。