『キライ、だけど好き。』   (特命戦隊ゴーバスターズ/リュウジ×ヨーコ)



 リュウジのことは好きだけどキライでもある。
 ウサダは彼の為に服を選ぶヨーコの後姿を見つめながらしみじみとそう思った。
 リュウジの人間性は十分に評価している。真面目で気配りができ、気は優しくて人に八つ当たりしたり滅多に怒ることがない。自分の思いをひた隠しにしがちだが、最近は無理をせず表に出せるようになっている。
 そんな彼がヨーコの恋人になったのだ。見知らぬそこらの男と付き合うよりずっと安心出来る。それでも。
「ねー、ウサダ。このスカートはどうかな? 短すぎ? リュウさん、あんまり短いといい顔しないんだよね。んー、ニーソはけば大丈夫かな?」
 ウサダの思いなど露知らず、ヨーコは意気揚々と支度を進めている。いいんじゃないの、と素っ気なく答えるが、わかったそうするねと明るく返されてますます気持ちがふさぎ込んだ。
 付き合い始めてから、ヨーコがリュウジのことをそれまでとは違う意味で慕うようになった。それは人間として自然なことだと理解しながらも、どこか複雑な思いを抱く自分がいる。
 ヨーコがウサダをないがしろにしている訳ではない。毎日顔を合わせているし、変わらずに一緒にいたりケンカをしたり、関係は変わらない。それでも、ヨーコがリュウジを想う姿を見ているとふつふつと静かに『リュウジは好きだけどキライ』という感情が湧き上がってしまうのだ。
「よし、今日はこれで決まり!」
 鏡を見てヨーコが頷いたのと同時に部屋のドアがノックされ、「リュウさん!」とヨーコが駆け寄る。
 開けられたドアの向こう、私服姿のリュウジはヨーコの姿を見て目を細め、嬉しそうに声を掛ける。それからウサダに気付くと、ふと目を瞬かせてヨーコに断りを入れ、部屋の奥にいたウサダの前に来てしゃがみ込んだ。
「ウサダ、どうした? なんか元気ない感じだけど」
 ぽん、と頭に手を乗せて優しく撫でるリュウジにウサダは耳をピクリと動かす。
「……別になんでもない」
 ほんの少し見ただけで指摘されて、驚くと同時に嬉しく思う。それでも悔しい気持ちが強く、返事がぶっきらぼうになる。
 ああ、そうだ。リュウジのこういう所なのだ。好きだけどキライなところは。
 人の機微を汲み取ってすぐにフォローに入る。ヨーコが困っていれば手を差し伸べ、すくい上げていく。
 ヨーコに関して、ウサダも何かあったらすぐに察知出来るくらい彼女のことを彼女以上に知っている。けれど、ニックやゴリサキ、Jとは違うマスコットに偏ったこの身体ではヨーコを抱き上げてやることもできない。リュウジはそこを易々とクリアしてしまうのだ。
 手を伸ばし、彼女に触れて抱き締めて。ヨーコの求める温もりを、あたたかさを与えてやれる存在の彼と、側にいて寄り添い、声を掛けるしか出来ない自分。それがもどかしく、リュウジに嫉妬していたのだと気付く。
「なに、ウサダ調子が悪いの?」
 能天気に話しかけてくるヨーコに大丈夫と首を振り、ウサダはリュウジを見上げた。
 どうしようもなく悔しいけれど、自分の代わりにヨーコの事を安心して任せられる。
 複雑な気持ちではあるけれど、リュウジ以外にヨーコを任せられる人はいないのは確かで。
 ウサダは手を上げて二人を急かした。
「ほらほら。二人とも早くデートに行ってきなよ。貴重な休日なんでしょ。あんまり遅くならないようにね」
「うん。ありがと、ウサダ。行ってきます」
「ほんとに大丈夫? 調子悪かったらゴリサキに診てもらうんだよ」
「大丈夫だって。……リュウジ、ヨーコのことよろしくね」
「任せておいて。行ってきます」
 笑顔を浮かべるリュウジはもう一度ウサダに触れて離れていく。
 その手が優しく温かくて。
「やっぱ訂正。悔しいしちょっとムカつくけど、好きだよ、リュウジのこと」
 ウサダは二人を見送ってぽつりと呟いた。