『クリスマスの夜に』   (特命戦隊ゴーバスターズ/リュウジ×ヨーコ)



 全てが一変したクリスマスの夜。
 連絡を受けた僕の両親とヒロムくんのお姉さんがエネルギー管理局に駆け付け、黒木さんから現状でわかっている事を説明されると同時に、僕たちにワクチンプログラムが移植され、その影響で無事だったと告げられた。
 ヒロムくんのお姉さん――リカさんは両親の行方が分からないことと幼い彼に施された未知の力に強い拒絶を示し、周囲が止めるのも聞かずにヒロムくんを連れて飛び出していき。そして僕の父は呆然と立ち尽くし、母は泣き崩れていた。
 つい数時間前までみんなそれぞれクリスマスの夜を楽しんでいたのに、この部屋の空気は絶望に包まれて。
(……これからどうなるんだろうな。少なくとも、今までとは違う生活になるはずだ)
 桜田センター長が言った言葉を思い出す。『対抗手段を残す』と。
 それは間違いなくワクチンプログラムを移植された僕たち三人と三体の作業用ロボットのことで。
 僕は隣で横になり、泣き疲れて眠っているヨーコちゃんの頭をそっと撫でた。
 この子には、ヒロムくんや僕のように怒ったり泣いたり、心配してくれる親がいない。唯一の肉親である母親がセンターごと飛ばされてしまったのだから。
 まだ三歳でお母さんと離れるべきではない小さな女の子。頬に残る涙の跡が痛々しくて、胸が詰まる。
「――リュウジ、とにかく今夜は家に帰ろう」
 ふいに父が僕の肩に手を置いてそう言った。けれど。
「ごめん、父さん。ワクチンプログラムが移植されたってことは、僕の体はきっと普通じゃなくなっていると思うんだ。検査を受けて大丈夫と言われるまでは帰らないよ。それに……この子一人を置いてはいけないから」
 ヨーコちゃんの小さな手が僕の服を握り締めている。
 この手を解いて僕だけが温かな家に戻るわけにはいかない。
 顔を上げると、父さんは今にも泣きそうな顔をしていて、けれど僕の気持ちを受け入れてくれたみたいに小さく頷き、母さんを連れて部屋を出て行った。
「リュウジくん……いいのか?」
 黒木さんに声を掛けられ、口の端を上げる。
「そうするしか、ないですから」
 三人で交わした約束を――そしてこの小さな温もりを護る為に。
 運命が変わった日。
 僕は全てを受け入れる覚悟を決めた。