今日も今日とて、お役目の山。
漣が私の式神になってから、本当に休みがない。
強力な彼がいるのだから――おじいちゃんはそう言って容赦なく仕事を回してくる。
だから、一日にこなさなくちゃいけない仕事量も多くって――。
『あなたがいるから』
「……もう、ダメだ~」
だだっ広い空き地の真ん中。最後の魔を退治して、私はその場に座り込んだ。
「要ちゃん、大丈夫?」
少し離れた場所にいた漣が駆け寄ってくる。
乱れた息を整えながら顔を上げると、彼は心配そうに私を見つめた。
「少し顔色が悪いみたいだね」
「そりゃそうだよ……。お役目ばっかで休みがない上に、今回の件ってなんか退魔の数がハンパじゃなかったし。いくら漣がいてくれるとはいえ、疲れちゃったよ……」
あんまり弱音は吐きたくないけれど、思わず愚痴を言ってしまう程に体は疲弊していて。
立ち上がろうとしても、ぐったりとした体はひどく重たい。
「……ほら、掴まって」
「ん……」
目の前に差し出された手。その手に遠慮なく掴まると、漣は私を引っ張り上げてそのまま横抱きにした。
「ちょ、ちょっと、漣っ……!」
ふわりと抱き上げられて動揺してしまう。
これってば、俗に言う『お姫様だっこ』というヤツで。
突然の事にドキドキと心臓が音を立て、真っ赤になる顔を自覚しながらもなぜか抵抗する気が起きない。
いつもの私なら断って自分で歩くと宣言するけれど、今はただ、漣の存在に安堵する自分がいて。
そんな事を思いながら首に手を回すと、漣がクスリと笑った。
「珍しいね。要ちゃんが大人しくされるがままにしてるのって」
「……それは自覚してる。なんかね、今はちょっと甘えたいのかも」
自分の心のままに正直に答え、私は漣の肩に顔を埋めた。
まるで子供のように顔をすり寄せて。
そんな私を、漣は当たり前のように抱き続けてくれる。
「ごめんね、漣……。漣だって疲れてるはずなのに」
「こっちの事は気にしないで。それに、僕としてはこういうのは大歓迎だけどね。……君が頼りにしてくれている――それが何より嬉しいから」
「……うん」
漣の言葉にうなずいて、目を閉じる。
抱き上げられた腕の思いがけない力強さに、彼の温もりに。何もかもを預けながら、私はつぶやくように言った。
「私ね、漣がいてくれるから……頑張れるの。毎日忙しくて大変だけど、漣と一緒なら何だって出来るし、乗り越えられる。だから……ね」
すとん、と落ちていく意識。
(……これからもずっと、側にいてね)
言葉に出来たのかどうか分からないけれど。
『もちろんだよ』という優しい漣の声が、遠くで聞こえた気がした――。