『あなたに伝えたい、この想い』
暖かな春の昼下がり。
少しだけ開けた窓から風が吹き込み、ソファに横になって眠る弁慶の髪をふわりと揺らした。
「弁慶さん? ……あれ、寝ちゃってる?」
ひょいと弁慶の顔を覗きこんだ望美は、まじまじと寝顔を見つめた。
弁慶がこんな風に無防備に眠っている姿は初めて見る。望美が白龍の神子として戦ったあの世界でも、この世界での時間の中でも。
昼寝をする事自体が珍しく、またこんな風に近付くとすぐ目を覚ましてしまうのに眠ったまま。
ようやくここが弁慶にとって心から安らげる場所になったのだろうかと思い、嬉しさから望美は微笑んだ。
「弁慶さん……」
髪が落ちないように手で押さえ、静かに体を屈める。
(起きないでね……)
そう願いながら、額にそっと口付ける。
触れた唇から「大好き」という気持ちが伝わるように、優しい口付けを。
「……………」
ゆっくりと顔を離し、改めて弁慶の顔を見た望美は頬を赤く染める。
「……なんか恥ずかしいかも」
いくら眠っているとはいえ、自分から口付けるのは恥ずかしい。そう思って口元に手を当てていると、ふいに視線を感じて望美は気付いた。
いつの間にか目を覚ました弁慶が、こちらを見上げている。
「べ…っ、弁慶さん!?」
「………ここにはしてくれないんですか?」
そう言ってちょんちょんと指差すのは、弁慶自身の唇。
指を当てたまま微笑む弁慶に、望美はへなへなとその場に座り込む。
「お、起きてたんですか…!?」
「君が口付けてくれた時に目が覚めました。ふふっ、嬉しいな。君から口付けてくれたのは初めてですからね」
弁慶はソファの上で体の向きを変えてうつ伏せると、手を伸ばして座り込んだままの望美の髪に触れた。
さらさらと絹のように流れる髪を手に取り、口元に運べば望美はいっそう頬を染めて弁慶を見上げる。その視線を受け止め、弁慶は柔らかな微笑みを浮かべた。
「望美さん、ありがとうございます」
「え……? 私は何も…」
「君の優しい口付けから伝わってきました。君の…僕を想うその心が」
「…………っ」
伝わったらいいなと思った。大好きだというこの想いが。
「弁慶さん、私……」
とても穏やかで幸せそうな弁慶の表情に、望美はそっとその頬に触れた。
こうして弁慶がここにいて微笑んでいてくれる事を心から嬉しいと思う。
二人、同じ時を過ごせる事を幸せだと思う。
瞳を見つめれば、優しく見つめ返される。
(………大好き)
募った想いに、望美はゆっくりと唇を重ねた。
初めて自分からするキスは、どこかぎこちなくて。でも、こうして自分の想いを伝えられる事がなんだか嬉しい。
肩に触れる弁慶の手の温もりを感じ、望美は返すように弁慶の首に腕を回した。
一緒にいられる事が嬉しくて、同じ時を過ごせる事が幸せで。
ずっとずっと、一緒に歩いていきたいと思う。
そんな気持ちを、重ねる唇で伝えたい。
あなたが大好きだという、この想いを――。