『隣にあるあなたの温もり』 



 村を出るバスに乗り込み、一番後ろの席に座るアリアとフィーアに続いて私と祐一先輩も同じ列に座る。
 他に乗客の姿はなくて、最後列に四人が並んで座るという少し不思議な光景だ。
(なんか、変な感じ)
 私が一番最初に……何も知らずにこの村に来た時は一人だったのに。
「………………」
 視線を右に流すと窓際に座ったアリアが『まだこのバスは動かぬのか』とブツブツつぶやき、隣に座ったフィーアに苦笑されている。
 そして反対――左側を見て私は心が温かくなるのを感じた。
(祐一先輩……)
 この村に来て本当にいろいろな事があったけれど。総てが終わった今、心を通い合わせた仲間達と――何より大切な人と一緒にいられる事。それが、嬉しくて。
「……珠紀?」
「あ……」
 私の視線に気付いた祐一先輩に見つめられ、その近い距離に思わず顔が赤くなる。
「ごめんなさい、なんでもないです」
 慌てて前を向き、アリアとフィーアの会話に意識を傾けようとして。
 ふいに左手に指が絡んで鼓動が跳ねた。
「祐一……先輩?」
 絡め取られた手はゆっくりと引き寄せられて。そのまま自然と傾いた私の左肩に、祐一先輩は体を預けてきた。
 心地良い重さと、伝わる温もり。なんだかくすぐったくて、でも嬉しくて。
 先輩もこんな気持ちを感じてくれているのかな……そう思って確かめようとしたけれど、耳に届く規則正しい穏やかな呼吸に気付いた私は、小さく小さくため息をついた。
「………………寝てる」
 特技は一瞬で寝る事――そんな話を誰かがしていた事を思い出す。
 もう一度、今度は大きなため息をついた私はふと向けられる視線に気付き、アリアとフィーアを見て固まった。
 二人が二人共、じっと私達の方を見ている。
 しっかりと握られたままの手。思いきり私にもたれかかって眠る祐一先輩。
 向けられる視線に、だらだらと冷や汗が流れそうになる。
「あ……、えっと……」
 何も言えずにいると、アリアがふっと眉間に皺を寄せた。
「なんじゃ、祐一は寝てしまったのか」
「う、うん。そうみたい」
「まったく、しばらくとはいえ村を離れると言うのにマイペースな奴だな」
 ふんと鼻を鳴らし、アリアは興味がなくなったとばかりに窓の外の景色を眺める。からかわれるか咎められるかもしれないと思っていた私はほっと息をつく。
 一方のフィーアは優しい瞳で私と祐一先輩を見て、そして微笑んだ。
「彼にとってあなたの隣は心安ぐ場所なのね。とても穏やかな寝顔をしているわ」
「そう……かな? そうだったら嬉しいな」
 微笑みを返そうとすると、まるで肯定するかのようにきゅっと手が握り込まれた。
「祐一先輩……?」
 起きてるの、と問い掛けるけれど相変わらずの様子で。
「ふふっ、無意識にそうだって答えたのよ。きっと」
「…………うん」
 恥ずかしいような気がするけれど、私は頷いた。そうであって欲しかったから。
「――あ、バスが発車するみたいよ」
 フィーアの言葉にアリアが反応し、どことなく目を輝かせた。


 エンジンが掛かり、動き出したバスはゆっくりと村を後にしていく
 この村に来て本当にいろいろな事があったけれど。総てが終わった今、心を通い合わせた仲間達と――何より大切な人と一緒にいられる事。それが、嬉しくて。
 私は心から幸せだと感じて微笑み、繋がれた手から伝わる確かな温もりに目を閉じた。