『君を守る誓い』(おまけ話1+2) 



「………………」
 ふと目を覚ますと、暗闇の中で静かな寝息が聞こえた。
 不思議に思って横を向くと、差し込む月明かりの中、保典くんの寝顔が見える。
「あ……れ……?」
 どういう事なんだろうと思って、私は状況把握に努める。
 今は――たぶん夜中だ。虫の音と彼の寝息だけが聞こえている。
 ぐるりと部屋を見渡してみれば、自分の部屋じゃないと分かって。じゃあどこなんだろうと考える。
 手がかりは、部屋の隅に置かれた物たち。
 闇に慣れてきた目で見てみると夏祭りに使うものが多くて、ようやくここがお祭りの詰め所なんだって気付いた。
 じゃあ次は。
 どうして保典くんと布団を並べて寝ているんだろう。
「う~ん……」
 これに関しては、理由が思い当たらない。
 行き詰った私は記憶を辿って――そして思い出した。
 天蠱に捕まって、何か術を掛けられて。ずっと怖い夢を見ていた。
 怖くて苦しくて。
 でも、保典くんの声が聞こえて、私は意識を取り戻したんだ。
 力の入らない私を彼はずっと抱きしめてくれていて、天蠱の攻撃から守ってくれた。
 他のみんなが駆けつけてくれて、保典くんは気を失ってしまって。
 それからすぐ、私も意識を無くしてしまったのだ。
 結局天蠱がどうなったのか分からないけれど、こうしているって事は、みんなが倒してくれたんだって思って。
「……私のこと、守ってくれてありがとう」
 手を伸ばして、そっと保典くんに触れ――そして気付いた。
 霊力が、いつもよりずっと弱くなっている。
(私を守る為に、力を削ってくれたんだ……)
『大丈夫だよ。君は必ず僕が守る。僕は玉依姫の盾。……絶対に、珠洲に手出しはさせない』
 その言葉の通りに、保典くんは私を守り切って。
 でも……。
「………………」
 私は体を起こして、保典くんの隣に座った。
「……やっぱり、なんだか顔色が悪いよ」
 月明かりの中でもそれが分かるぐらい、蒼白な顔をしていて。
 体を屈めて、私は静かな呼吸を繰り返す彼の唇に、自分のそれを重ねた。
(私の力を……受け取って……)
 イメージする。自分の霊力が、重ねた唇から保典くんに伝わるように。
 私の力もまだ本調子じゃなくて。でも、分けられるまでは回復しているから。
「…………保典くん」
 唇を離して彼を見ると、さっきよりも顔色が良くなっている。
「良かった……」
 心から安心して。そしてもう一度、私は保典くんにキスをした。
 今度は、想いを込めた特別な口付けを。

『もし、僕が君を傷付けるような夢を見ているのだとしたら。それは絶対に嘘だから。僕は君が……好きだよ。……思い出してくれないかな。僕と君が一緒に過ごした時間を。僕はこれからも同じように……いや、もっと一緒にいたいんだ』

 悪夢に囚われた私に、保典くんが伝えてくれた言葉。
 本当に嬉しかった。
 普段は、お互いに照れてしまってはっきりとは伝えられないけれど。
「私も同じ気持ちだよ。これからもずっと、一緒にいたい。大好きだよ……」
 心のままに想いを告げて。
 そして、恥ずかしくなって布団に戻ろうとすると、急に眠気に襲われる。
「……一緒でも、いいよね?」
 布団に戻るのを遠く感じて。何より、今は少しでも彼の近くにいたくて。
 悩んだのはほんの一瞬。
 私は保典くんの布団に潜り込んで、目を閉じた。
 伝わる体温。確かな彼の存在。
 なんだかとっても幸せで心地よくて。
 あっという間に意識を手放して眠りに就く。

 あなたの温もりを感じながら見る夢は
 きっと、どこまでも幸せな――そんな夢。







 翌朝。
 詰め所を訪れたエリカは絶句した。
「なんで……同じ布団で寝てるのよ!?」
 ズカズカと上がりこみ、賀茂の額にデコピンをお見舞いする。
「いっ――たぁあっ!?」
 驚いて飛び起きた賀茂の隣で、珠洲が目を擦りながら起き出した。
「あれ……。もう、朝?」
「そうみたいだね……って、珠洲? どうしてここで寝てるんだい!?」
「あ、それはね……」
「問答無用っ!」
 珠洲の説明を待たず、エリカは手刀で賀茂の頭に痛撃を加えた。
「保典! あんたの事見損なったわ!」
「ちょっと待てよ、僕は何も――」
 知らない、と続けようとした賀茂は固まる。
 エリカの背後に今の状況を覗き込む複数の影。
 怒りを露にしている彼女の様子。なぜか同じ布団にくるまっている珠洲。
 どう弁解しても勘違いは解けそうにない。
「だからっ、僕は何もしていないんだ~~~~!!」
 信じてもらえないと知りながら、賀茂は悲痛な叫び声をあげた。