『桜、咲く』  (魔進戦隊キラメイジャー/熱田充瑠×柿原瑞希)



 サクラサク。
 瑞希の第一希望の大学で二人並び、見上げた彼女の受験番号はたくさんの番号の中に確かに存在していて。緊張で強張っていた瑞希の指の力が緩むのを感じ、俺は繋いだ手をぎゅっと握り直した。
 この日のためにずっと勉強を頑張っていた瑞希。じわじわと自分のことみたいに嬉しくなって喜びが込み上げる。
「……やった! 瑞希、大学合格おめでとう!」
「うん、ありがとう」
「瑞希……?」
 嬉しそうだけど、どこか沈んだ声。浮かべている笑顔も少しずつ強張っていく。
 一体どうしたんだろう? 思わず嬉しくないのかと問い掛けると、瑞希は首を振った。
「それはもちろん嬉しいよ。……でも、充瑠と別の大学に行くんだって現実を突きつけられて複雑っていうか。今まで同じクラスで毎日会ってたから、なんか寂しいっていうか……離れるのが不安だって気持ちが強くなっちゃった。……あはは、変だよね。別れるワケじゃないのに、今からこんな事を考えるなんて」
「そうだったんだ……。でも――」
 大丈夫だよと声を掛けようとして、思い止まる。不安そうな瑞希が心から笑えるように、言葉だけじゃなくて、もっと確かな形で心の支えになるものをあげられたら――そう考えてパッとイメージが閃いた。
「ひらめキーングっ!」
「え、なに、どうしたの⁉」
「瑞希、今からココナッツベイのお店に行こう」
「ココナッツベイって……ココナッツタワーの?」
「あそこは本社だよ。そこじゃなくて、今から行くのは普通の店舗の方」
「普通のって……宝飾品店ってこと?」
「そう。えっと、ここから一番近いところは……」
 スマホで場所を確認すると、歩いて五分くらいのところに最寄りの店舗がある。大学前の大通り沿いだから迷うはずもなく、スマホをポケットに入れて瑞希の手を引き、歩き出す。
 半歩遅れて足を進める瑞希は目を瞬かせていて、俺は緩む口元をそのままに思い付いた閃きを言葉に乗せた。
「あのさ、指輪を買おう。手持ちがあんまりないからちゃんとしたのは買えないし、もしかしたら今日は下見だけになっちゃうかもしれないけど、瑞希が指輪をつけてくれたらいいなって思って。……どうかな?」
「指輪って……。え、嬉しいけど、いいの?」
「うん。俺、キラメイジャーをやってた時はいつもキラメイチェンジャーを持ってたんだけど、それがある事でいつだってみんなと繋がってるって感じてたんだ。だから、いつも身に着けていられる指輪はどうかなって思ったんだけど。……あ、でも別に指輪じゃなくてネックレスとか他のものでもいいよ。瑞希の好きなものを選んでいいから――」
「ぜったいに指輪がいい! あと、出来ればペアリングがいいんだけど。充瑠に他の女の子が寄り付かないように」
「心配しなくてもそれはないと思うけど」
「ないことないってば。自覚ないみたいだけど、充瑠はカッコいいんだからね。私と付き合ってるって事を知らない子に狙われたら困るから」
「それを言うなら瑞希の方が心配なんだけど。最近、可愛いだけじゃなくて綺麗になってきたし……あ、ちょっと瑞希が不安がってた気持ちが分かってきた。うん、虫除けにもなるし、やっぱり指輪にしよう」
 立ち止まり、瑞希の左手の薬指にそっと触れる。
 自分のそれよりずっと細く、華奢な指。この指に、柿原瑞希という女の子が俺の彼女だという確かな証を纏ってほしくて。
「指輪、受け取ってくれるかな」
 瑞希の様子から独りよがりな考えじゃないってわかったけれど、念のために確認すると瑞希は俺を見上げて花のような笑顔を浮かべる。
「ありがとう、充瑠。大好きだよ」
 潤む瞳とふわりと色付いた頬は何より綺麗で。

 ――桜咲く。

 二人手をつないで歩く道は、例え一時違う場所を歩んでも再び交わる。
 さっきまでの憂いは消え、軽やかな足取りで歩き始める瑞希の隣で。俺は晴れ渡る空を見上げて、その眩しさに目を細めた。