『今日の森宮 ~ハンドクリーム編~』  (フラジャイル/森井×宮崎)



「わ、わわっ……」
 焦ったような宮崎の声に、森井は隣の席に座る彼女に視線を投げた。
「コーヒーでも零したんですか?」
「違うんです。あの、火箱さんにもらったハンドクリームのサンプルを使おうとしたら、思いのほかたくさん出ちゃって」
 その言葉に手元を見ると、確かに塗り込める量を遙かに超えたクリームが存在している。
「……どうしたらいいんでしょう、って顔してますけど、ティッシュでいらない分を拭えばいいんじゃないですか」
「でも、これ買ったら高いらしいんですよ。もったいなくて……。あ、そうだ!森井さん、もらって下さい 」
「は? もらってって――」
 意味を汲み取るより早く、宮崎は森井の手を取ってクリームを塗り込んだ。
 手のひら、甲、指の間や指先まで。量が多く、ベタベタした感覚が塗り込まれる内に次第にしっとりとし、肌がひたりと吸い付くように触れ合う。
 手をさすり、指を絡ませ。
 必死に塗り込んでいる宮崎は気付いていないのだろうか。昼下がり、同僚の検査技師の手を触りまくる姿に、なんとも言えない表情を浮かべながらこちらを凝視している上司の視線に。
「あの、宮崎先生……」
「あと少しですから。……すごいですね、あれだけベタベタしてたのにもうサラサラになってきたなんて。やっぱり高いだけありますね。化粧水みたいなハンドクリームって煽り文句も納得しちゃいます」
「宮崎先生、もういいですか?」
「……うーん、こんなものかな。あ、いい匂い。森井さんも同じ匂いでお揃いですね」
 満足そうに笑う宮崎の背後で岸が神妙な顔をしている。
「あのさ、君たち付き合ってんの?」
『違いますけど』
 二人同時に否定すると、岸はへぇ、と呟いて口の端をニヤリと上げた。
「いや、別に僕は構わないよ。仕事に支障が出ない限りね」
「だから付き合ってませんってば!」
 岸に反論する宮崎を横目で見つつ、森井は手の甲を鼻に近付ける。
 甘い甘い、いかにも女子が好きそうなフローラルな香り。
 自分とは対極にある香りに眉根を顰め、森井はこれ以上の厄介ごとはごめんとばかりに席を立った。










お題 #今日の二人はなにしてる https://shindanmaker.com/831289

ハンドクリームを貰う。試しにつけてみようとしたら出しすぎたので相手の手に塗り込む。相手と同じ匂いになってちょっと満足。