『ある冬の夜、森井宅にて。』  (フラジャイル/森井×宮崎)



「ただいま」
「おかえりなさい」
 コンビニに夜食を買いに出ていた森井が戻ってきたのを出迎え、宮崎はビニール袋を受け取りながら触れた彼の指先が冷え切っているのに気付き、表情を曇らせる。
 袋をリビングのテーブルの上に置くと、宮崎は森井の手を取って自分の両手で包み込んだ。
「お買い物、ありがとうございました。外、寒かったですよね……」
 真冬の外、防寒着を着ていても体の芯から冷える夜。一緒に行こうとした宮崎に断りを入れ、森井は一人で買い出しに出ていたのだ。
 少しでも、と温もりを分け与えるように指先や手の甲に触れていると、やんわりと手が解かれ、宮崎は森井を見上げる。
 もしかして嫌だったのだろうか、と思った次の瞬間、宮崎の服の下へ森井の手が潜り込み、そのまま冷たい手がひたりと肌を撫で上げた。
「……っ、ひぁっ⁉︎」
 腹の薄い皮膚越しに氷のように冷たい手に触れられ、たまらず背中が粟立つがそれも一瞬だけ。硬い指の腹や手のひらがじわりと自らの温もりを帯び、肌に馴染んでいく感覚に宮崎はそっと息を吐いた。
「もう、ビックリしたじゃないですか」
「温めてもらうんだったらこっちの方が早いと思って」
「それは確かに、体幹の方が暖が取れるけど、その……手が……」
 腹に当てられていた手が宮崎の腰のラインをなぞり上げ、胸へと伸びていく。明確な意図を持った指先がブラジャーのホックをあっさりと外し、体格の割に豊かな胸の膨らみをやわやわと形を変えながら揉んでいき、宮崎は思わず声を漏らす。
 森井の所に泊まる、という時点で心づもりはしていたが、思いがけないタイミングに混乱しつつ、なけなしの理性を総動員して森井の肩を押し、ゆるりと首を振ってビニール袋に視線を投げる。
「あの、先にごはんにしませんか? せっかく買ってきてもらったおでんが冷めちゃう……」
「それは後で温め直せばいいし。それよりお互いにもうその気だと思うんで」
「……っ、あ」
 冷えが残る指先が胸の先に触れ、走る甘い痺れにたまらず身を捩らせると森井が笑う気配がする。顔を上げると、「ホント敏感だよな」と柔らかな声音でつぶやいた森井が笑みを浮かべていて、宮崎は肩に置いたままになっていた手を動かし、頬を包むように両手で触れた。
「ずるいですよ……。そんな気持ちにさせたのは森井さんじゃないですか」
「まぁ、そうだけど。元はと言えば宮崎先生が先に……って、これは自覚ないだろうからな」
「なんですか、私が先って」
「……そういう無自覚なところが好きですよ」
「笑っ……。――その笑顔、ずるいですっ」
「はいはい。お喋りはここまでにして……」
 手を伸ばし、ビニール袋から小さな箱を取り出してテーブルの隅に置く森井に、宮崎はその箱のパッケージを見て頬を染める。
 夜食とともに買ったらしい避妊具の箱に、これからする行為を意識せずにはいられず、森井の肩に顔を埋めて体を小さくする。
「……その、お手柔らかにお願いします」
「了解」
 そう耳元で応えた森井に、宮崎は無意識のうちに詰めていた息を吐き、顔を上向かせて口付けが落ちるのを待った。