『短い恋文』
「次、依藤~」
「はい」
名前を呼ばれて、私は教壇の前へと向かう。
“教師”である真朱先生の前に立つと、目の前に一枚の用紙――小テストの用紙が差し出された。
(どうかいい点数でありますように……)
願いを込めて用紙を受け取ると、チラリと赤ペンで書かれた数字を見る。
結果は――。
「やった……」
思わずつぶやいてしまい、慌てて顔を上げると先生が小さく笑っていた。
(……子供みたいだったかな?)
一日でも早く大人になって先生の隣に立ちたいのに、こんな調子じゃいつになるのか分からない。
「頑張ったな」
「……はい」
掛けられた言葉にうなずいて、席に戻る。
一人ひとり呼ばれ、テスト用紙が返されていく中でそっと点数を見返すと、赤ペンで書かれた数字の下にうっすらと何かが書かれているのに気付いた。
(うん……?)
擦ってしまったらすぐに消えてしまいそうな弱い筆圧で書かれた文字は、先生の字。
『惜しい。あと一問で全問正解だったな。……けど、よく勉強したな。この調子で次も頑張れよ』
(これって、もしかして私だけに書いてくれたの? それともみんな……?)
気になって他の人のテスト用紙を覗き見てみたくなるけれど、そんな事は出来ない。
(先生……?)
チラリと教壇の方を見るけれど、視線は向けられることはなく。私はもう一度テスト用紙に書かれた先生の字を見つめた。
よく見なければ分からないメッセージ。
このメッセージがどうか特別なものであって欲しいと、心から願ってしまう。
(ねぇ、真朱先生。……私だけに書いてくれたって信じてもいいですか?)
問い掛けながら、この心にある想いはふわりと色付く。
教師と生徒という関係に戻ってしまっても、想いは同じなんだって信じさせて欲しい。
(……先生)
今にも消えてしまいそうな文字をもう一度目で追い、私はテスト用紙を折り畳んで教科書に挟み込んだ。
お題『恋文』 (Completion→2009.12.02)
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