『雨の日に』 (聖剣伝説3/ホークアイ×リース)
薄暗い灰色の雲が空を覆い、昨夜から降り出した雨がしとしとと続いている。宿の外に出て風を読んだリースは、その日の行動を諦めて部屋に戻った。
「ただいま戻りました。今日は一日雨が続きそうですから、休養日にしましょう」
そう声を掛けると、シャルロットは嬉しそうにベッドにダイブし、枕に頭を預けて二度寝をすべく体から力を抜く。そんなシャルロットに小さく笑い、リースはホークアイへと視線を投げた。
彼はリースの言葉にわかったと頷き、それまでそうしていたように窓の外を眺め、目を細める。
(……そういえば、私が部屋を出る前も外の景色を眺めていたわ。何を見ているのかしら)
ホークアイの視線の先が気になり、リースは彼の向かいにある椅子に座って声を掛けた。
「あの……窓の外に何かあるのですか? 先程から何かを見ているように見えますが」
「ああ、雨を見ていたんだ」
「雨……?」
「そう、雨さ。オレの故郷は一年に一度あるかないかくらいの間隔でしか雨が降らなくてさ。しかも、降る時は地面を叩きつけるような雨が数日降り続いて、それきり次の機会を待つしかない。……だから、こんな優しい降り方をする雨はオレにとっては新鮮で、つい見入っちまってたってワケさ」
「そうだったのですね……。水には苦労する地だとは知っていましたが、それほどまでとは知りませんでした。……あの、もし時間をもらえるようでしたら、ホークアイの故郷の話を聞かせていただけないでしょうか?」
「オレの……って、砂漠の地の話か?」
「ええ。私はローラントから出た事がほとんどありませんでしたから、書物の上の知識でしか知らないのです。だから、どのような環境なのか、住んでいる人たちがどのように暮らしているのか、そういった事を知りたいと思いまして」
「……リースは変わってるな」
「え?」
「いや、良い意味で言ったんだ。オレの故郷に興味を持ってくれて嬉しいぜ」
微笑むホークアイの笑顔がいつになく柔らかい。リースはなぜか胸の鼓動が一つ大きく跳ねたのを感じ、席を立った。
「あの、お茶をいただいてきます。あなたも飲むでしょう?」
「ああ。ありがとう、リース」
「いえ……」
心なしか彼の声音まで優しく感じ、また一つ鼓動が跳ねる。それを心のうちに押し留め、共用スペースに向かったリースは宿の主人に湯をもらい、ポットに茶葉を入れた。茶葉が開くまでの間、窓の外を眺めながら今から始まる時間のことを考える。
ホークアイが語る、砂漠の国の話。
単純に知識だけでは理解することの出来ない、その地に生きる人の暮らしぶりを知りたいと思ったが、興味を持ってくれて嬉しいと言った彼の笑顔が胸に花を咲かせる。
静かに降る雨を眺めながら語られる異国の話は、きっとどの書物よりも心が揺さぶられるのだろう。
思いがけない時間に喜びを覚えながら、リースは茶を淹れると彼の元に向かった。