『支え』 ~お題:幽霊船~  (聖剣伝説3/ホークアイ×リース)



 一歩足を踏み出す度に床板が軋み、暗い通路を照らしてくれるはずのランプの光が弱々しく、不規則にフッと点滅を繰り返す。
 人でも魔物でもない、声ならぬ呻き声のような音が船内のあちらこちらから聞こえてきて、リースは思わず生唾を呑んだ。
「もういやでち……おうちにかえりたいでちよ……」
 ぴたりと寄り添うシャルロットにスカートの裾を握り込まれ、リースはぎこちない笑顔を浮かべる。笑え、と自分に言い聞かせながらシャルロットの頭に手を置き、そっと撫でつける。
「シャルロットちゃん、がんばりましょう? ホークアイを助ける為にも私たちが前に進まないと……」
「それはわかってるでち……でも、こわいものはこわいんでち! リースはへいきなんでちか?」
「わ、私だって……」
 同意しそうになり、リースは慌てて首を振る。本当の事を言えば怖くて仕方がない。けれど怖がる自分に代わって航海日誌を手に取り、幽霊になってしまったホークアイの姿を思い浮かべ、彼を救うのは自分たちしかいないのだと己を奮い立たせる。
「平気じゃない、けど、シャルロットちゃんは私が守りますから」
「ほんとでちか……?」
「本当に本当よ」
「約束、でちよ?」
「ええ、約束するわ」
 小指を絡めて指切りをすると、リースは今度こそ微笑んだ。
 ここに来るまで三人で行動するのが当たり前になっていて、欠けたホークアイの存在がどうしようもなく大きく感じる。

『うへぇ、気味の悪い船だぜ。……リース、何が起こるかわからねぇ。気を付けて進もうか』

 船室を出る時に誰よりも先に様子を窺い、皆の前を進んでいたホークアイ。彼の背中は今はなく。
(いつの間にか、あなたに支えられていたのね。……待っていてください。必ず助けてみせますから)
 槍を強く握りしめ、リースはこびり付きそうな恐怖心を振り払って前へと進み始めた。