『ささやかな幸福』  (三月のライオン/島田×あかり)



「あかりさん、島田さんがごちそうさまって言ってましたよ」
 日曜の夕方、零くんが持ってきてくれた紙袋を受け取り、中を確認すると空っぽのタッパーが入っていて。
「開さん、ごはん食べてくれたのね」
 零くんが開さんの家に行くと聞いて、持って行ってもらったおかずだけど、迷惑にならなかったのだと安堵する。零くんにお礼を言うと、彼は「島田さん、嬉しそうでしたよ」と笑った。
「あかりさんの手料理を口にした時の島田さん、目元とか口元がふっと緩んで、なんか幸せそうで。あかりさんには言わないでくれって口止めされたんですけど、また食べたいって言ってました」
「そっか……。喜んでもらえたみたいで嬉しいな」
 零くんが教えてくれた島田さんのそんな様子を思い浮かべると、ほっこりと胸が温かくなる。
「零くん、本当にありがとう。晩ご飯食べていくでしょ? 待っててね」
 台所に移動し、夕食の準備をする前にタッパーを洗おうとして取り出すと、綺麗に洗われたそれに思わず目を瞬かせた。
「洗ってくれてある。零くんかな? それとも開さんが?」
 どちらも気遣いの出来る人で。でも答えは次の瞬間、わかった。
 紙袋の底に貼られた付箋紙に彼のメッセージが書かれていて。

  『うまかったです
   ありがとう。島田』

 簡潔なメッセージだけれど、素朴でとても温かい。
「嬉しいな……」
 なかなか会う時間が取れなくてごめんと彼は謝るけれど、こんな細やかな気配りが何より嬉しくて。
 今度は差し入れにメッセージカードを添えようと決めて、私は付箋を指でなぞった。