世の中は理不尽なことが多い。
 とりわけ、彼女に関しては――。


    『日生と少女とプレゼント』


「お嬢、薔薇の花をどうぞ」
「あら、綺麗ですね。戴いてしまってもよろしいのですか?」
 差し出した薔薇を受け取り、優美に微笑む少女。
 またある時、装飾品をプレゼントしようとした時には
「こんな高価なものは受け取れませんわ。だって、私が受け取っていい理由がありませんもの」
 そう言って微笑みながら断られる。
 彼女の前にどんな物を並べてみても、いくつもの甘い言葉を囁いても、その心がなびくことはない。
 難攻不落とは彼女のことを言うのだろう。そう思っていたが――。

「遠野。お前、確かカップラーメンが好きだと言っていたな。良ければこれをやる」
「……まぁ! これは初めて見るものですわ」
「昨日、親の使いで買い物に行ったんだが、そこで見つけてな。期間限定とも銘打ってあるし、何となく気になって買ってみたんだ。気に入ればいいが」
「ふふっ、とても嬉しいです。桐島先輩、本当にありがとうございます」
「別に礼はいらん。口に合わなかったら捨ててくれ」
「そんな! 大切に味わって食べますね。……あ、そうですわ。今度、このラーメンがあるお店を教えて下さい」
「それは構わんが……。お前、食べる前から買いに行く気なのか?」
「ええ。パッケージから察するに、このラーメンは当たりです。期間限定ものですから、早く買っておかないとなくなってしまいますもの」
「……はぁ。分かった。今日の放課後にでも行くか?」
「はいっ」
「しかし、本当に外見からは想像がつかん好物だな。……遠野、お前がカップラーメンを好きな事は分かったが、あまり食べ過ぎるなよ。せめて二日に一度にするんだな」
「……はい」

 ポン、と頭に置かれた手に、はにかむ様な微笑みを浮かべる少女。
 難攻不落なはずのお姫様は、カップラーメン一つで心を動かす。
 草間の影から二人の様子を見ていた日生は、脱力したようにその場に膝をついた。











 (Completion→2011.08.04)