『ある一夜』 (スターオーシャン3/アルベル×ネル)
その日の夜も、いつもと変わらない穏やかな夜を迎える筈だった。
就寝の支度をしていると、来訪者を告げる機械音が鳴る。上着を一枚羽織り、扉を開けるとそこにはアルベルが立っていた。
「なんだいこんな時間に……」
「……眠い」
そう一言呟いてふらふらと部屋に入るとベッドに倒れ込み、身体を投げ出す。
グッタリと脱力した四肢を見て、私は手を伸ばした。
「アルベル、アルベル‼︎ ちょっと、ここはあんたの部屋じゃないんだよ⁉︎」
「…………あ?」
何度も呼び掛け体を揺り起こし、ようやく彼は薄っすらと目を開ける。その瞳は完全に酒に呑まれた目で、アルコール臭のキツさとあわせて珍しく深酒をしているのだと知った。
「ずいぶんな量を飲んだようだね。悪いけど自分の部屋に帰って寝てくれないかい」
問い掛けるも、返事をするのも億劫とばかりに私に背を向け、再び意識を手放したようで。その無防備さに溜息を吐きながら、私は彼の隣に腰を下ろした。
「全く、いくらここがアーリグリフやシーハーツ領じゃないからって気を抜き過ぎだよ。私がその気になればその首を切り裂く事も出来るんだ。少しは警戒するんだね」
忠告するも返事はない。半ば呆れながら、私は膝を組んだ。
「……今でも信じられないよ。あんたとこうして同じ時を過ごすようになるなんて……背中を預ける存在になるなんてね。そんな相手はクレアの他にいないと思ってた
運命の悪戯とでもいうのかね。本当に不思議なもんだよ」
アルベルを見下ろし、その背の広さに口元が緩む。
強さを追い求め、相当の鍛錬を積んで自らを鍛え上げてきたのだと見て取れる。彼が追い求めた強さはフェイトに感化され、今は時に仲間をも助ける力となっている。
「感謝してるよ、あんたと出会えたこと。……今日はここでゆっくり休んでいきな。おやすみ、アルベル」
掛け物を掛け、ベッドを離れようとしたその時。ふいに伸びてきた手に手首を掴まれ、思い掛けない強さで引っ張られる。
完全に油断していた。気付けば彼に組み敷かれ、身動き出来なくなっていた。
「……あんた、まさかさっきの……全部聞いてたのかい?」
「当たり前だ、阿呆。気を抜き過ぎなのはどっちだ」
「…………やられたね」
ひと通り独白した想いを反芻し、唇を噛む。曝け出してしまった気持ちが気恥ずかしく、顔に出したくないのに勝手に熱が集まる。
「離してくれないかい? 酒臭いのは嫌いだよ」
「ハッ、嫌いも何も気にならなくしてやる。……今夜は手加減出来ねぇ。覚悟するんだな」
「……っ」
髪に指し入れられる手は言葉とは裏腹に優しく。私は促されるままに目を閉じた。