『Brake time』 (スターオーシャン5/エマーソン×アンヌ)
「あの、一体この状況はなんでしょうか……」
おかしい、とアンヌは机の上に置いたコーヒーに視線を投げた。
自分は残業に励む上司にコーヒーを差し入れに来ただけだ。なのに背を向けた途端、ふいに抱き締められたのだ。
アンヌはトレーを胸に抱き、首を回してエマーソンを見た。彼はその大きな身体と長い腕でアンヌを包み込むように抱き、ハァ……と深い溜息をついている。
更にじとりと見続けていると、エマーソンは唇を尖らせた。
「癒しが欲しい……。連日の残業続きでもう書類ごとはウンザリだ」
彼の愚痴を聞いてアンヌは思わず苦笑した。提督という立場になって遠い存在になるかと思ったら、彼は変わらない。
「癒し、ですか。私で癒しになるのなら……」
緩い拘束の中で体を反転させ、アンヌは手を伸ばしてエマーソンの頭をゆっくりと撫でた。
面食らった様子のエマーソンがフッと口元を緩めて目を細める。
「俺が求めていたものとは違うが、これも確かに癒されるな……」
「ふふ、良かったです。いつもお疲れ様です、エマーソン」
「ありがとう。……さて、あと一息、頑張るか」
「はい」
ゆるりと解かれた拘束と離れる温もり。名残惜しく感じる心を悟られないよう、トレーを抱き込むと顔に影が差し、頰に温もりが触れた。
「……エマーソン?」
目を瞬かせて彼を見ると、どこか少年のような目をして笑っていて。
「仕事、さっさと片付けるから少しだけ待っていてくれ。一緒に帰ろう」
「……っ、はい!」
ここは職場で公私の区切りをつけなければならないはずなのに。
狡い、と思いながらも嬉しさが勝り、そう答えると彼も笑みを深くして。
執務室にコーヒーの香りが漂う。
その香りが消えない内にとばかりに勢い付いた書類処理の手。
彼の真剣な顔付きに、アンヌはそっと心を震わせた。