『重ねた額、寄る心』 (スターオーシャン5/フィデル×ミキ)
窓から差し込む日の光。ああ、朝だと思うと同時に体の異変に気付いた。
なんだか妙に寒い。底冷えするような寒気に襲われて掛け物を手繰り寄せ、肩まで覆う。それでも少しも暖かくならずに体を震わせながら自覚した。
熱が上がっている。しかもかなり高そうだ。
(これは数日は動けなさそうだな……。風邪でもひいたかな。体調を崩すのは久しぶりだけど、キツイな……)
以前、同じように体調を崩したのはいつだったか。スタールに居た時で、まだ幼かったミキが額を合わせて熱を測ってくれた事を思い出す。
『フィデル兄のお熱、早くどこかに飛んでいけ……!』
僕の額の熱さに半泣きになりながら、まじないをしてくれたミキの姿を懐かしく思う。
(あれは何年前だったか……。両親のことを思い出させてしまったよな。呪印術も病気には効かないから徹夜で看病してくれたっけ)
診療所の先生を呼び、診察が終わると看病の仕方を聞いて実践してくれた。お粥を作り、濡れ布巾を小まめに替え、着替えを手伝ってくれた事を思い出す。
いつものように父さんは家を空けていて、ミキがいなかったら僕は一人で寝込んでいた筈だった。熱にうなされて苦しくとも、傍にいてくれた彼女の存在に救われた。
「ミキ……」
呼気と共に呟いた名前。それに「フィデル」と返され、額にひんやりとした手が触れる。驚いて顔を上げると、心配そうな彼女の姿がそこにあった。
「ひどい熱……。大丈夫? 苦しいよね」
「……どう、して?」
なぜここに、と見上げると、ミキは頷いた。
「朝ご飯が出来たから呼びに来たの。でも、それどころじゃないね。ちょっと待ってて、今、薬を持ってくるから。それと熱は上がり切ってるみたいだから氷枕も用意してくる」
ミキは手際良く僕の胸元や手に触れて確認すると、ベッドサイドから離れようとする。そんな彼女に半ば無意識に手を伸ばした。
「フィデル……?」
縋るように掴んだ手。気怠さを感じながら半身を起こし、その手を引き寄せミキを抱き締めた。
「……ごめん、少しだけ傍に居て欲しい」
言いながら、これは甘えだと自覚する。いい大人だというのに自分に情けなさを感じると共に安堵しているのも事実で。
熱に浮かされるままに彼女を胸に収めていると、柔らかな声音が耳に届いた。
「少しだけ、だよ。早くお薬を飲まないといけないんだから」
まるで子供を諭すような。でもこうしている事を許されてミキの肩に顔を埋める。
「フィデル、あっつい……」
「……ああ」
「これだけ熱が高いと苦しいよね。呪印術で病気が治せたらいいのに。いっその事私が代わってあげたいぐらいだよ」
「それはダメだ。お前が苦しむ姿は見たくない。……けど、こうしている時点で感染す可能性が高いから、そんな事を言う資格はないか」
「そんなの気にしないの。……そうだフィデル、おでこ貸して」
そう言ったミキは僕と自分の前髪を上げて額を合わせる。その距離の近さに思わず目を閉じると、彼女の声が耳に届いた。
「フィデルの病気、早くどこかに飛んでっちゃえ!」
それは思い出していた昔のミキに重なって。目を開けると、すっかり大人の彼女が柔らかな笑みを浮かべていた。
「大丈夫、傍にいるよ。フィデルは私が守るから」
僕の頰を両手で包み込みながら告げるミキ。その手に触れ、左手の薬指に在るシルバーリングに指を添わす。
ずっと傍に、と誓いを交わした指輪。
僕は彼女の手を取り唇に寄せて指輪に口付けた。
「ありがとう。頼りにしてる」
「うん、任せて。だから……ね」
ミキに促され、僕はベッドに横になる。
熱い。苦しい、体が軋む。けれど不思議と辛くはない。
手際良く看病支度をするミキの後ろ姿を見つめ、傍に居てくれる彼女に心から感謝した。