『夕日の中で』  (スターオーシャン5/フィデル×ミキ)



 剣を鞘に収め、一礼をして夕方の稽古を終える。
 頰を伝う汗を拭いながらひと息ついていると、テッドが見晴台の方を指差し、言った。
「フィデル、ミキがいるぞ。ほら、あそこ」
 視線をやると、石垣に手を掛け海を眺めているミキの姿があって。その背中がどこか気落ちしているように見えてテッドに告げようとすると、彼も同様に感じたようで、二人でミキのもとに向かった。
「おーい! ミキ」
「……テッド、フィデル兄! 剣の稽古は終わったの?」
「ああ。ミキはここで何してたんだ?」
「なにって、海を眺めてただけだよ。ほら、夕焼けが綺麗でしょ」
「誤魔化すなよ。なんか元気ないだろ。何かあったんじゃないのか?」
「……うん。あのね、いつも雑貨を売りにきてるおじさんがいるでしょ?」
「ああ、たまにくる行商人か。確か装飾品を持ち込んでて、ミキがよく見に行ってるよな」
「そうなの。で、そのおじさんがね、街道を通るのが危ないからもうスタールまで来れないって。今日が最後って言ったの。私が小さい頃からずっと行商に来てくれてたから、寂しくて……」
 行商人との別れを思い、ミキの瞳が揺れる。手を伸ばし、頭を撫でると涙が溢れ、ミキはそれを拭った。
「呪印生物に盗賊団、それに戦争……。これからどうなっちゃうのかな。スタール村も変わっちゃうのかな」
 ミキが零した不安。それは確かにここ数年、少しずつこの村に忍び寄っていて。
 ミキだけではなく、村の人たちも見えない不安を少なからず抱えている。
 それでも。
 僕とテッドは顔を見合わせ、頷いた。
「大丈夫だ、ミキ。何があっても俺たちがこの村を守るからさ」
「カミューズの剣は守るための剣だ。ミキのことも村のことも、僕たちが守ってみせる」
 剣の柄に触れ、ミキに告げると同時に自らの気持ちを確認する。
 あの人にはまだ遠く及ばないけれど、この村を……大切な人たちを守りたい。
 そう決意を新たにしていると、ミキが笑顔を浮かべた。
「……そうだね、わたしもがんばるよ。フィデル兄もテッドも、熱が入ると無理する時が多いんだから。怪我した時は任せておいて」
「当てにしてるからな」
「もー、怪我しないように戦うのが前提だからね⁉︎」
 小突き合いを始めるテッドとミキを夕日が照らす。村の中心部へと視線を向ければ山肌や石造りの家々が紅く染まっていて。
 生まれ育った自然豊かなこの場所を守るために、僕は剣を握る。
「……日没までもう少し鍛錬をするか」
「はぁ? マジかよ。俺はパスだからな」
「テッドはコツコツやるの苦手だもんね。でも、がんばって! 晩ご飯、美味しいもの作るから」
「それって俺も食べていいってこと?」
「うん。おばさんにはわたしから言っておくから」
「よっしゃあ! フィデル、行こうぜ」
「ああ」
 ミキも気持ちが切り替わったようで、その場で別れる事になり。
「二人ともがんばってー!」
 声を掛けるミキに手を振り、僕とテッドは鍛錬場に向かって歩き出した。