『裏通りに連れ込んで』  (スターオーシャン5/ヴィクトル×フィオーレ)



 『今日はショッピングに付き合って』と言う彼女の希望に応じ、大通りを歩く。既に何軒か店を回ったが、冷やかすだけでまだ何も買ってはいない。
 本当に買い物が目的なのか、こうして見て回るだけで気が済んでいるのかは分からないが、隣を歩く彼女は上機嫌で楽しそうにしている。それだけでこうして共に時間を過ごすのも悪くないと思い、私は口の端に笑みを浮かべた。
「……なんだか嬉しそうね」
 私の表情に気付いたらしいフィオーレが小首を傾げる。それに応じて「お互い様だろう」と返すと彼女は笑った。
「そうね。いい気分だもの。特別な相手とこうして同じ時間を過ごすのって、こんなにも心が浮き立つものなんだって久しぶりに実感してる」
「久しぶり、か」
 フィオーレが決して詳細を口にしない『あの人』の存在が垣間見え、私は視線を外した。
 器が小さいだろうか。彼女は今こうして私の隣に居るというのに、その心に深く存在する彼に遠く及ばないのだと痛感させられる。
「ヴィクトル?」
 私の様子に気付いたらしい彼女が腕に触れる。その手を取り、私は裏通りへと彼女を連れ込んだ。
 先程までの表通りとは違い、人の気配がほとんどなく喧騒も遠くに聞こえる。そこで私は胸の思いを告白した。
「……“あの人”がフィオーレにとって大切な人だという事も、今もその心の多くを占めていることは解る。ただ、時々無性に妬けるんだ。私は彼よりもその心に近付けるのだろうかと不安になる」
「バカね。天秤にかけるなんて。私は今、あなたといる時間を――この恋を楽しんでいるの。もし不安に思うのなら……」
 フィオーレは言葉を切り、私の襟元を強く引いた。不意を突かれ、引き寄せられるままの私に彼女は唇を重ねる。
「……こうして確かめて。言葉より何より確かでしょ?」
 悪戯っぽく笑う彼女の頰がほんの僅か紅潮しているのが見て取れ、私は安堵した。
「そうだな、またそのような気持ちに囚われる時が来たら確認させてもらおう」
 フィオーレの手を取り、その甲に口付けると彼女がくすぐったそうに笑う。
「寄り道をさせてしまってすまなかった。買い物の続きをしよう」
「ええ」
 手を繋ぎ、指を絡めると彼女が体を寄せる。
 連れ立って歩きながら、私は繋いだ手の温もりをしっかりと握り込んだ。










ヴィクフィオへの3つの恋のお題:君の声が聴こえた気がした/裏通りに連れ込んで/君が望むなら何度でも
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