『髪に触れる』  (スターオーシャン5/ヴィクトル×フィオーレ)



 さらりと流れる金色の髪。男性にしては長めのそれをヴィクトルは後ろで無造作にまとめる。
 けれど前髪と頰にかかる髪は下ろしたまま。
 特殊部隊として動いていたからか、それとも別の理由があるのか。どことなく顔を見られる事を避けているように思えて、わたしは手を伸ばし、彼の頰に触れた。
「どうかしたのか?」
 触れられた手をそのままに彼は問う。
 突然触れても拒絶されない。そんな距離にいるからこそ知りたくなってしまう。
「髪。伸ばしているのは理由があるの?綺麗な顔立ちなんだから隠すのはもったいないと思うけど」
 わたしの言葉に彼は微かに眉根を寄せ、視線を逸らした。
「あまりいい思いをした憶えがなくてな」
 苦々しい声。短い答えの向こうに垣間見える彼の過去。
 わたしは頰に触れていた手を滑らせ、ヴィクトルの横髪を梳いた。
「わたしは好き」
 投げかけた疑問が呼び覚まし、彼の胸に生じた気持ちをどれだけ包み込めるかわからない。
 けれどこの気持ちは本心で、金色の髪に隠れた瞳を真っ直ぐに見つめる。
 精悍な顔立ちも、意志の強さを感じさせる眼差しも。
 美しい顔立ちというだけでない、ヴィクトル・オークヴィルというその人を感じられるから。
「好きよ」
 もう一度告げた想いに彼の顔が僅かに歪む。
「……フィオーレ」
 掠れた声で名前を呼ばれ、微笑むと深く掻き抱かれて肌と肌が密着する。
 ひたりと触れる彼の肌は熱く、その熱に再び浮かされて。貪るような口付けを交わしながら彼の髪を搔き上げる。
 指に絡む美しいブロンズの髪。露わになる顔の輪郭にゾクリと背中が粟立つ。

(彼の全てを知れるのはわたしだけ)

 心の奥底に生じる独占欲。
 互いを求めて溶け合う行為に身も心も溺れながら、わたしは彼の名を何度も呼んだ。