『キスの日』  (SOA/クロード×レナ)



『ねぇねぇ、レナ! 今日はキスの記念日なんだってさ。艦内のあちこちでカップルがキスしてそうだけど、レナはもうした? まだならクロードを捕まえて自分からしちゃいなよ』
 ブリッジに顔を出した時に、ウェルチから掛けられた言葉。
「……もう、あんな事言うから変に意識しちゃうじゃない」
 私は一人、艦内の廊下を歩きながら頰を軽く叩いた。
 今、クロードに会ったら絶対に挙動不審になりそうで、行き会わなければいいなとすら思ってしまい、そんな自分に気付いて嫌になる。
(クロードは何も悪くないのに……)
 すっかり気持ちが落ち込んでしまい、俯きながら歩いていると、後ろから肩を叩かれて体が飛び上がった。
「レナ……? ごめん、そんなに驚くとは思わなかったよ」
「ク、クロード……」
 なんてタイミングなんだろう。彼の存在に、ただ目を瞬かせて見返す。
 何も言えずにいるとクロードは不思議そうな顔をして、ふと表情を曇らせた。
「ごめん。タイミングが悪かったみたいだね。特に用事があった訳じゃないんだ。また今度、改めて声をかけるよ」
「あっ、違うの……!」
 立ち去ろうとするクロードに手を伸ばし、服の裾を引く。
「その……クロードは何も悪くないの。私が勝手に意識し過ぎただけで……。ごめんなさい」
「意識し過ぎたって、何をだい?」
「それは、その……」
 説明するのは恥ずかしい。でも、不自然な態度の理由を誤魔化したくなくて、私はクロードに事の顛末を話した。
「だからね、本当に気にしないで欲しいの」
「……それは気にしないでと言われても無理な話かな」
 一つ息を吐いたクロードは、ふいに顔を寄せて口付けを落とす。
 突然のキス。
 柔らかな唇の感触に驚いていると、至近距離で彼が囁くように告げた。
「僕を意識するレナが可愛くて、しない方が無理だよ」
「クロード……」
 恥ずかしさに熱くなる頰を押さえると、クロードは優しく微笑む。
「ごめん、もう一度いいかな」
「……うん」
 周囲に目を走らせて、誰もいない事を確認して。
 私達はそっと唇を重ね合った。