『穏やかな時間』 (SOA/ディアス×チサト)
「あら、ディアスじゃないの」
艦内を散歩していると、共有スペースの椅子に座り、何か作業をしているらしいディアスを見掛けて私は近付いた。
「何をしているの……って、木の実……?」
彼の手と机の上に、艶やかで丸い団栗どんぐりが存在している。
無機質な機械に囲まれたこの艦の中で――しかも彼がそれを持っているという違和感に首を傾げると、ディアスは作業の手を止めて私を見た。
「リムルとリリアが探査中に見付けて拾ってきたそうだ。これで何か作れないかと言われてな。笛を作っている所だ」
「へぇ……。団栗で笛が作れるのね。それにしても、肝心の依頼主は?」
「中身を出すのに時間が掛かるから、他の場所で時間を潰してもらっている」
「そうなのね。どうやって作るのか、見させてもらってもいい?」
「好きにすればいい」
言い方は素っ気なく、けれどその声音に棘はなく隣に腰掛ける。
ディアスの持つ団栗には穴が開けられていて、そこから爪楊枝で中身を出していた。
(なんて地味で根気のいる作業なの……。それでも手を抜かずにやるのね、あなたは)
黙々と手を動かし続けるディアスを見ながら、リムルとリリアが彼に団栗の工作をお願いした時の様子を想像し、心が温かくなる。
(きっと、何故俺が……なんて思いながらも引き受けたんでしょうね。子供ってよく人を見ているのよね。この人が持つ本質的な心を無意識に感じとったんだわ)
一見すると近寄り難い人に感じるけれど、その懐に入ると彼の持つ優しさに気付かされる。そして真っ直ぐな誠実さも。
団栗を扱う彼の手の動きからだって、その性格を感じ取れる。
ああ、好きだなぁ……。なんてしみじみ思いながら見守り続けていると、ふとディアスが手を止めた。
「……眺めていても面白くないだろう。他を見てきたらどうだ?」
「あら、私は楽しんでるわよ。こんな穏やかな時間もいいなって。……気が散るようなら席を外すけど」
「別にそういう意味で言ったんじゃない。退屈でないのならここに居てくれ」
「ええ。ありがとう」
頷き、緩む頰を誤魔化したくて頬杖をつく。
『ここに居てくれ』。
その言葉が心から嬉しくて。
彼の隣に居られる喜びに、私は目を細めた。