『優しく積もる淡い恋』 (Panic Palette/ノル×亜貴)
(まったく……。この人はどうしてこんなにも――)
浅い眠りから覚め、机に突っ伏したまま眠っている亜貴を見たノルは、長い溜め息をついた。
明日はテストがあるからと深夜まで机に向かっていたものの、気を失うように眠り込んでしまったらしい。その証拠に手にはシャーペンが握られたままだ。
物事に対して真面目に取り組む亜貴は、どこか不器用で時に無理をしがちだ。そんな彼女に付き合うつもりで自分も起きていたが、途中で寝入ってしまったようで。
「…………」
机で眠る亜貴に、言いたい事は山のようにある。以前の――共に暮らし始めた当初のノルならば、それこそ口煩い姑のように思うままに小言を連ねたのだろう。
だが、今のノルにはそれが出来ない。
依藤亜貴という人間がどういう人間であるのかを理解し、惹かれてしまった今となっては、見守るつもりで先に寝入ってしまった自分に多少なりとも責を感じるようにまでなってしまったのだ。
慇懃無礼と評されるやり取りは変わらないが、それでも確実に亜貴に対する想いはノルに優しさを滲ませる。
「……仕方ありませんね」
ノルはぽつりとつぶやき、亜貴の側にふわりと移動した。
「亜貴様。……亜貴様。眠るのなら布団でお休みなさい」
「…………う~……」
「……亜貴様」
少し強く呼び掛けるも、深く眠り込んでいるのか起きる気配はない。
「本当に仕方のない人だ」
再び溜め息をついて、ノルは本来の姿に戻るべく燐を解いた。
球体から人の姿へ。
そして手を伸ばし、亜貴の肩に触れる。
「ほら、起きて下さい。こんな姿勢で寝ていては身体によくありませんよ」
「…………」
「亜貴様……」
体を揺さぶるが、一向に起きる様子はなく規則正しい呼吸を繰り返している。
ノルは『仕方ないですね』とつぶやき、亜貴の半身を机から引き離した。
「んぅ……」
無理矢理動かされた体に声が漏れるものの、脱力した体はくにゃりと揺らぎ、ノルの腕に体重が掛かる。
「お……っと」
自分とは反対の方向に傾げた体を引き寄せ、すんなりと自らの胸に収まった亜貴に溜め息一つ。
「……布団までお運びしようと思ったのですが、気が変わりました。貴方が目覚めるまでこうしている事にしましょう」
いつもの姿では触れる事が出来ない温もりに、今この時だけはと心が緩む。
いつからか大切な存在になっていた亜貴を腕に抱き、ノルは微笑みを浮かべた。
(Completion→2009.12.8)