「ねぇ、守永さん」
「……んぅ?」
もう何度目になるかという声掛けに、彼女は寝ぼけ眼で俺を見て、そしてまた夢の世界に戻ろうとする。
そんな彼女を見て、俺は思わず小さく声を出して笑ってしまった。
『そっと耳打ち』 (ソラユメ/水窪×皐月)
ほとんどが教科書通りに進行される、退屈な授業。
午後一番の授業。加えて抑揚のない教科担当教師の声に、クラスの数人は顔を俯かせて意識を遠くに飛ばしていた様子で。
ちらりと皐月を見ると、彼女は重たそうな瞼を瞬かせ、必死に眠気に抗おうとしていた。
そして授業が終わり、立礼が終わると同時に机に突っ伏し――今に至る。
声を掛け、体を揺する事で彼女は顔を上げたが、意識の半分以上は夢の中。
何度声を掛けてもとろんとした瞳で俺を見返し、曖昧に返事をして眠ってしまう。
「まいったな……。次、移動なんだけど」
本当に眠たそうな彼女を起こしたくはないけれど、だからといって遅刻するわけにはいかない。
「仕方ない。こうなったら奥の手を使うか……」
一人つぶやき、皐月の耳元に唇を寄せて俺は囁くように言った。
「 」
告げ終えると同時に、弾かれたように顔を上げた皐月は頬を赤く染める。
「……っ、み、水窪くんっ! 今の――」
「目、覚めたかな?」
「覚めるも何も、そのっ……、いきなりそんな事言うだなんて……っ」
「まぁ、本当にそう思ったから言ったまでだけど。それより、次は教室移動だから一緒に行こう」
「う……」
頬を染めたままの皐月を促し、教室を後にする。
二人並んで廊下を歩いていると、ふいに視線を感じて皐月を見る。
「……どうかしたの?」
向けられていた物言いたげな視線に問い掛けると、瞳を揺らがせ、彼女は立ち止まって俺の制服の裾を引っ張った。
「さっきの言葉。……もう一度言って?」
「皐月……?」
「その、寝ぼけてて最初があまり聞けなかったから……」
俺たちの脇を、他の生徒が通り抜けていく。
そんな状況で言葉を求めた皐月に応え、体を寄せて耳打ちをする。
「君が求めてくれるのなら、何度だって言うよ。俺は――――」
恥ずかしそうに、そして嬉しそうに。
この胸に溢れる想いを受け止める皐月に、俺は微笑みを浮かべた。
空白部分にはお好きなセリフを入れてみて下さい(笑)
(Completion→2009.7.18)