『長雨に閉ざされた空間で』 (遙かなる時空の中で3/弁慶×望美)
「雨……なかなか止まないですね」
望美は雨音に耳を傾けてため息混じりにつぶやく。
その隣で弁慶が薬研を動かす手を止め、穏やかな笑みを浮かべた。
「憂鬱そうですね。雨は嫌いですか?」
「嫌いって訳じゃないんですけど、外出も出来ないし洗濯物は乾かないし。雨が降らなきゃ困るけど、こう連日続いちゃうとさすがにちょっと……。そういう弁慶さんはどうですか?」
「そうですね……。以前はあまり好きではありませんでしたが、今は――」
手を伸ばし、弁慶は望美の肩を抱く。
「こうして君と二人で穏やかな時を過ごす事が出来るから。だから、好きになりました」
雨の日は訪れる者もほとんどいないのだと弁慶は笑い、望美の頬に口付ける。
診療所を兼ねている二人の住処は、普段は人の出入りが多くこのような夫婦水入らずの時間が取れずにいるのだ。
弁慶の言葉を受けて、望美は頬を染めながら彼を見上げた。
「……さっきの言葉、訂正してもいいですか? 私も雨の日が好きになれそうです」
二人は微笑み合い、ゆっくりと唇を重ねる。
雨音に包まれながら同じ時を過ごせる幸せを、心から感じて――。
(Completion→2008.2.22)